僕の作劇法の礎として、高校生の頃から脚本を読んで勉強していた、尊敬する倉本聰先生だが、去年だったか、一度だけ特別授業で先生のお話を傾聴した。

 

中で、こういう質問が会場から出た。

「先生は北海道にまったく縁がないのに富良野に移り住んでいらっしゃいますが、地元に馴染むコツとかあるのでしょうか?」

 

先生はちょっとだけ考えて、

「それはね、いっぱい迷惑かけたことだと思うよ」

 

例えば、演劇の塾生と農作業をして、ドロドロになる。

このまま戻るのも嫌なので、近くの家に飛び入りで、「風呂貸してくれませんか?」と尋ねたそうだ。

 

そうすると近所の人が注目し始めて、「今日は作業しないのかい?」とか、声をかけてくれるようになったそうだ。

 

先生は最後にこう締めくくった。

「取材とかでね、現地に二、三日いてね、それで地元を解った気になっても、それは無理」

 

 

これには僕もハッとさせられた。

僕は作品作りの際、二、三日どころか何十回も現地を訪れた。

しかし、「迷惑をかける」というところまで、踏み込めなかった。

他人行儀だったとでも言おうか。

 

「聖地を汚してはならない」というのが僕の信条で、今もそう思っているのだが、それでは地元とのある程度の距離感ができてしまう。

そしてそれは、地元を本当に理解するための障害になっているのではないか、と思った。

 

まぁ今となっては時既に遅し、だが。

 

 

やっぱり僕は、東北とは「住む」ほどの縁じゃないんだなぁ、と思う。

「東北三部作」はもちろんこれからも大事にしたいが、これ以上東北に深くコミットするのは、何か違うと思っている。

僕はただのアニメ監督だ、先へ進もう。

 

 

 

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