飲み屋さんで隣に座った

 知り合いのA君の奥さんが

 「Hさん、年取ってからの

  ひとりで暮らしって寂しくないですか?」

 なんて聞いてきた。

 

 そこでこれまでの人生を何となく振り返った。

 ボクは次男坊だから、気がついた時には

 父、母、父方の祖母、そして兄の5人家族だった。

 そして大学生の時、後の奥さんとなる人と

 4畳半のアパートへ駆け落ち引っ越し。

 それから、結婚して子供が3人できて5人家族。

 その後子供たちが巣立って、夫婦2人に戻って。

 ボクが59歳の時、奥さんが亡くなって

 生まれて初めての一人暮らしとなったわけだ。

 

 思い起こせば寂しい思いをしたことは当然ある。

 また、夕食を1人で食べてる時など

 何となくラジオやテレビをつけるのは

 きっと静かすぎることを、

 ボクの気持ちが嫌っているからに違いない。

 

 でも、耐えられないような寂しさはない。

 それは、しなければいけない事、考えたい事、

 したい事が、次々に出て来るし、

 様々な方からしょっちゅう声もかかるから。

 

 ボクは周囲の人たちを見ていていつも思う。

 

 本当に寂しい人ってのは

 家族や知り合いに囲まれているはずなのに

 常に省かれているような、

 ちゃんと付き合ってもらえていないような

 集団の中にいるのに孤立してる人だって。

 

 ボクに話しかけてきた奥さんの旦那A君は、

 その奥さんと娘さんと3人家族だが

 A君が会社から家に帰って、リビングに入ると

 2人ともサッと自分の部屋に消えてしまうし

 奥さんとも娘さんとも

 もう5年以上もまともな会話はないと言ってた。

 

 そういえばたまに読ませていただいている

 ある奥様のブログにも、

 <旦那が大嫌いで、それは

  近寄ってくると鳥肌が立つほどで

  だから家の中では旦那の顔も見ないし

  存在を忘れて暮らしてるから

  旦那が髭をはやしたのも、

  隣の奥さんに言われて初めて気がついた>

 なんて書いてあった。

 

 そこで、最初のA君の奥様の

 「寂しくないですか?」

 の質問にボクはこう答えた。

 

 「きっと貴女の旦那様より寂しくないと思う」

 って。