田中好子さんの葬儀の模様をテレビで見ていたボクの頭は、33年前の4月に飛んでいた。
 
 その日ボクは知り合いに紹介された本郷の小さな出版社を訪ねていた。
 そこは古い木造住宅の6畳間に机と椅子を置いただけで、社員は3名だけという小さな会社だった。

 そこで1時間ほど話した時だった、地鳴りのような「ウォー」という巨大な音がしたと思ったら、その部屋の3つの窓がガタガタと音を立てて大きく震えたのだ。
 ボクはビックリして思わず立ち上がり「何ですかこれ」と聞いた。するとそこに居たボクと同年代の男性社員が時計を見ながら
 「すぐそこの後楽園球場でね、キャンディーズの解散コンサートが今始まったんだ。この音と振動は多分、男性ファン5万人の叫び声だと思うよ」と教えてくれた。
 
 男性5万人が叫ぶと、家が揺れる・・・。その時の驚きはいまでもはっきり覚えている。

 それからしばらくしてボクの好きだったキャンディーズのヒット曲「やさしい悪魔」が聞こえて来た。
 
 女性というものが「やさしい悪魔」だと知ったのは、それから間もなくだった・・・。