昨日の夕方、ある店の前で「ここだよ~」と携帯を耳に当てながら、手を振る二十歳位の男性が居た。そしてその手を振る先を見たら、十代後半位に見える女の子が、こちらも携帯を持ちながら手を振っていた。
 
 そんな光景を見ながら、昔は映画やドラマなどでしょっちゅうあった、男女の<すれ違い>の場面なんて、もう作れないなと、つくづく思った。
 <すれ違い>というような間違いや制約があってこそ、恋の情念はせつなく燃え上がるものだから、恋愛物を書く今の作家や脚本家は、さぞかし大変だろうと思う。

 ボクが高校生の時、文化祭で知り合った彼女に「電話して」と言われて番号を渡されたが、家の電話は家族皆が集まる居間にしかない。
 そこで駅前の電話ボックスへ走り、あわててダイヤルを回すと受話器の向こうから「キミは誰だ、ウチ娘とはどういう関係なんだ」というお父さんらしい男性の恐ろしい声が響いて来て、あわてて電話を切ったなんてこともあった。
 
 あの頃もし携帯があったら、ボクの人生は大きく変わっていたと思う。
 でもそれが、良い方に大きく変わったかどうかは分からない。