当たり前なのだが、生き物を飼うというのは大変なことで、こんな強烈な台風が来ていても、愛犬の散歩は欠かせない。
 というわけで昨夜、そして今朝と、びしょびしょになりながら周辺を歩いたわけだが、ふと周囲を見渡すと、人々の大切な物への気遣いが見えてきた。海周辺では、漁師が船をつなぎ、防風林に住むホームレスたちは、ビニール小屋を必死に補修し、サーファーは真っ先にボードを家の中に仕舞い込んでいた。
 大通りへ出ると、商店の人は通りに面したウィンドウや看板を心配し、サラリーマンは背広やカバンが濡れないように、必死に傘をつかみ、女子高生はミニスカートのスソを一生懸命抑えていた。
 しかし、歩行者の中に、その動きにとても違和感のある男性が居た。スーツもカバンもびしょ濡れなのに必死に押さえていたのは傘ではなく、何と頭髪なのだ。彼にとってはそれこそが、身につけている物の中で飛ばされては困る、一番大切な物だったのだ。