昨夜行ったバーで、カウンターの片隅に一人静かに座る怪しいオジさんが気になった。確か前回も同じ様に同じ場所で酒を飲み、ママをじっと見つめていた。
 そして午後9時をやや過ぎると「終電の時間だから」と席を立った。これも前回と同じだったはずだ。
 何となく興味がわき、店の人に「この時間の終電って早いよね」と聞いた。すると「彼は長野の歯医者さんで、東京駅発の新幹線の終電が10時時頃なのよ」という答えが返って来た。
 「へぇー、長野からわざわざ通って来るんだ」
 「彼はね、学生時代からママに憧れていて、それで通ってきてるのよ・・・」
 週に数回、彼は診療終了後に長野駅から新幹線に乗る。ママの顔を見つめ、ちょっとだけのおしゃべりをするために。そしてまた、新幹線の終電に乗って帰って行く。
 学生時代に憧れを抱き、片想いに胸を熱くして30年・・・。
 その話を聞いてから、久々に遭遇した美しき純愛話に感動したボクは「怪しいオジさんなんて思ってゴメン!」と、心の中でつぶやいたのだった。