「あいつまだ結婚してないの、もう40後半だろ。ひょっとしてYってさあ、アッチの趣味なんじゃないの・・・」喫茶店で、そんな噂話が聞こえて来た。
 こんな話が何度か繰り返されるうちに「なんじゃないの・・・」というような疑問符が消え「あいつはあっちの趣味だから結婚しないんだよ」とか「そういえば、新宿3丁目で姿を見かけた・・・」なんてことになり、断定系の話に姿を変えていくわけだ。
 噂話というのは何気ない一言から始まり、内容が面白ければ、どんどん話が広がり、とんでもない形に成長していく。
 そいうえば昔、ボクが「有名企業の社長の息子らしい」という噂が流れたことがある。そのきっかけは実に情けないもので、宴会の席で「オレがあんな会社の社長の息子なら今頃は・・・」なんて話したことが始まりらしかった。
 ある日、その件で先輩がボクの所に確認に来た。当然ボクはきっぱり否定したのだが、その時先輩が「おかしいと思ったんだ、名家に生まれた人間には動作にも言動にも、隠しきれない品格ってものがあるもんなんだ。おまえにはそのカケラもないもんな」と、笑いながら言った。
 その時ボクは、正直、ちょっと悔しかった。