「もちろんオレは女房が一番好きだよ、だから女房の写真はいつも持ち歩いてる」そう言って彼は、手帳のポケットから一枚の写真を取り出し、ボクとバーテンに見せた。その写真の中の奥さんはとても若かった。そりゃそうで、撮影日時を見たら1984年6月とある。24年も前の写真だ。
 聞いてみると、「結婚した年に、女房の実家がある岡山駅の近くで写したんですよ」と、彼は照れながら言った。彼はボクより5歳ほど年下だが、オジさんであることは間違いない。しかしそんな中年オヤジが、奥さんの若い頃の写真を持ち歩いているなんてのは実に珍しい。
 「でも○○さんは、こんな奇麗で大好きな奥さんがいても、やっぱり若い女の子を誘うんですよね」と、バーテンが言った。すると彼はしばし考え、真剣な顔で「それとこれとは誰でも別なんだよ」と答え「そうですよね」と、ボクの方を見て同意を求めるた。
 もう恋なんてできるはずもない、今さら恋するなんてそんな面倒なこと、でも、ひょっとしたら今夜あたり、好都合な恋に出会えるかも・・・。そんな気持ちで夜の街を彷徨うのがオヤジの心か。
 その店を出ると「ちょこっと女の子の居る店に寄っていきますので」。そんな言葉を残し、彼は千鳥足でまたネオンの中へ消えて行った。