晴れて跡部と彼女は恋人同士になった。

手の早い跡部がまだ手を繋ぐまで止まりだという事と、あの彼女と付き合うということに宍戸と忍足は酷く驚いた。

「よくOKしたな」

休み時間、宍戸は後ろを向いて彼女にそう話しかける。彼女はウンザリとした様子でため息を吐くと、読んでいた文庫を置いて肘をついた。

「OKすれば飽きてくれると思ったのよ。ほら、手に入ったらそれで満足みたいな?」

「ああー」

「でもね、彼よくわからないのよ。私がお弁当はいつも菓子パン一個って言ったら次の日は重箱を樺地君だっけ?彼に持たせて教室に押しかけてくるし…帰りはリムジンで送ろうとしてくるし…」

早口でそう言って彼女はまた、大きなため息を吐いた。

宍戸も跡部のこの行動には理解ができなかった。

いつもならばすぐに飽きて切り捨てる男が、ごくごく平凡な彼女にこんなにも執着している事が。

「しかもね、日曜はテニス観に来いってうるさいの。部活の見学くらいなら構わないけど…」

確かに、今彼女の本命バンドはライブを行っていない。しかし好きバンドはライブ行っている。

心にぽっかりと穴が開いてしまった彼女を癒すのは跡部でもなくそのライブなのだ。

と、そんな事は口が裂けても宍戸には言えない事なのだが。



「…ムック

「あん?」

「あ、ううん。なんでもない!」

お昼休み。いつもの様に中庭で跡部と樺地の三人で昼食を取る。

彼女は大好きなタコさんウインナーをフォークに刺したままぼんやりと空を眺めていた。

「食欲ねぇな」

「ああ、今ダイエット中なんだよね」

「それ以上どこをダイエットすんだよ」

なぁ?樺地?と鼻を鳴らしながら跡部は言った。ウスッと樺地もその言葉に同意する。

彼女はクスクス笑いながらタコさんウインナーを口に放り込む。

「やっぱ跡部君の持ってくるお弁当おいしい」

「当たり前だ」

照れ隠しの憎まれ口だというのも跡部と付き合い始めて一週間で見抜けた。

口は悪いが、それなりに優しい男らしい。少し観察するとやっぱりなかなかの男前だと思う。

目も青いし、顔も整っている。

だが、あくまで彼女の理想は京さんだ。

背丈も違えば体系すらも違う。跡部は、京さんじゃない。

「…」

京さんは、大丈夫なんだろうか?

ふいに、涙が零れる。

「…どうしたんだよ?」

彼女が顔を上げると跡部が困った顔で彼女の涙を指で拭った。

「…なんでもないよ」

そう言って笑って見せるが、跡部は顔を顰めたままだ。

「お前の悲しい顔見てるとこっちが苦しいんだよ」

跡部はソッと彼女を抱きしめる。いつの間にか樺地はいなくなっていた。

彼女は目を閉じて跡部の背中に手を回す。

京さんはこんないい匂いするのかな? 京さんはこんなに細身なのかな?

京さん…貴方は私にとって遠すぎます…。


あーちくしょう。頭振りてぇ…ムック縦揺れだから振りにくいんだよ…!!


そう思うとまた涙が込み上げてくる。彼女は跡部の服をギュッと握り締めた。