Vol.15

宝石を着替えると、出逢う人も変わります
たった一つの宝石が、人生をかえるかも しれません。

広島の ジュエリーコーディネーター はやし かよです

60歳にもなっていないご婦人が、「宝石をつけていくところがなあーーい」と。


 マジですか


私のお客様の最高(最幸)年齢のお客様は、96歳

普段からウィッグをつけてるお洒落さんで、
最初、年齢を教えてもらった時、ひっくり返りそうになった


ご主人は、20年以上も前に亡くなられていて、
息子さん夫婦と2世帯で生活をしつつ、
晴耕雨読の毎日を送られていた。


お寺さんや病院には、宝石を着けていくのよーっと、おっしゃってました。

この小さな体で、どうやって一人で、維持してるのか訳の分からない広い畑をされていて。
いつもトマトやお芋やとうがんをお土産に持たせてくれた。

短歌の会もされていて、私にも手ほどきをしてくれた。

そのNさんの畑で、野菜をもぎつつ、私が初めて読んだ短歌は

「秋晴れの 風吹く丘に 匂い立つ
 シロナの根っこの 肥ゆる土かな」


Nさんがお茶を入れ替えに立ったすきに 読んだ短歌は

「茶を熱くしに立つ君の飾る歌
手のたう処(ところ)へ 心尽くせと」


Nさんの家から買える途中に、溝に脱輪した時、JAFを待ちながら詠んだ句は

「知らぬ地で 溝にはまりし 車(しゃ)に集う
 善意の映える 澄んだ秋空」


様になってるのか なってないのかさえ わからない

たどたどしい 私の短歌を


「あなた、筋がいいわよーーー」と。
褒めてくれた後、アドバイスをしてくれたNさん。


私は、一度もNさんの口から、愚痴を聞いたことがない。
骨折して長い入院から退院された時も
「今回はねーーー。もう帰ってこれないかとおもったの。でも?かえってこれちゃったわ
と、茶目っ気たっぷりにウィンクされた。


いつも
ほがらかで、素直で
天神爛漫な少女のように 私の目に映ったNさんの大好きな言葉は

「苦を嘆く者あり 苦から学ぶ者あり」

こんな風に、女性は生き抜いていくのだ。
すがすがしい成熟した大人の在り様を目の当たりにする度、背筋が伸びる思いがした。


そのNさんが、この晩夏に、人生をまっとうされた。

あの、笑顔に会えない事が 本当に淋しい。

お砂糖をたっぷ入れて、つくってくださったカフェオーレの味が懐かしい。