東北大震災からあとは「原子力は安全を最優先し、再生可能エネルギの拡大を図るなかで、可能な限り原子力発電への依存度を低減する」といった整理がなされていましたが、2022年末頃から、エネルギー価格の高騰などがあって、最長60年としていた発電所の運転期間を延長したり、新設や増設、建替えを推進するような方向が打出されています。
原子力に関しては色々な課題が残されていますので、多少なりとも整理しようと思いました。
〇 原子力産業から排出される廃棄物の地層処分
我が国の原子力発電はトイレなきマンションと揶揄されることもありますが、最終的なごみ処分場が定まらないままに現在に至っています
原子力発電で発生した高レベル放射性廃棄物(最終的にはガラス体に固化して処分する。)や半減期の長い核種を含む低レベル放射性廃棄物は、その放射能が十分低くなるまでに長い期間を要するために、地中深くの安定した地層中に処分することまで決まっています。
高レベル廃棄物の保存期間は数万年以上(一声、期間10万年と言われているようです)、低レベルの放射性廃棄物にも長期の保管が必要とされています。
候補地を決定しても、最終的な決定に至る調査は三段階(文献調査、概要調査と精密調査)に展開されるため、都合20年の調査期間が必要とされています。
調査を経て受入れ地が決まって、施設を建設開始し、操業する(廃棄物の搬入作業が終わって、埋めた箇所を閉じる。)までの事業期間は100年以上と想定されており、このような業務に対応するため、我が国では原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立されています。
保管期間の長さの参考ですが、NUMOの資料では現生人類(ホモ・サピエンス)が出現して25万年が経過しているなどと紹介されています。
このような構想に対して、地質学の専門家等から、我が国の国土はアジア大陸のプレート(ユーラシアプレート)とこれに対して太平洋側から沈み込む複数のプレート(北米プレートとフィリピンプレート、さらにこれらに向かって沈み込む太平洋プレート)の上にあり、かかる目的に沿える安定な地層は無いという見解が示されて現在に至っています。プレートの沈み込む部分は不安定であるが故に、変動帯と呼ばれるようです。
一方、資源エネルギー庁(経済産業省)は、(不勉強ながら最近報道で知ったのですが)2017年7月に、処分地に相応しい特性が確認できる可能性があると期待できる処分地候補の候補地を示す「科学的特性マップ」を公表して、これを起点に自治体や国民の理解を得て処分地選定を促進しようとして現在に至っているようです。
私見ですが、このマップを大まかに眺めて気になったのは、本年元旦に大地震が発生しその後も規模の大きい余震が認められる能登地域の大半が安全地帯になっていることや、処分地に期待できる地域と好ましくない特性があると推定される地域が夫々狭い地域として近接している箇所もあり、ひとたび地震でも起れば両方に影響が及ぶのではないかと想像されることです。
マップがどのような根拠で整理されたかを余程明確に記録しておかないと担当者が定期的に交代する役所の社会では学術・技術的な継承や定期的な見直し作業が難しいように感じられます。
これまでは、処分地候補として名乗りを上げる自治体が殆ど無いままに推移しているようで、NUMOによる現地調査(処分地選定調査)が進められている北海道の近接した2地点に加えて、新たに九州北部の1地点が手を上げたようです。
なお、これらの地域についてマップを見ると、北海道の候補地は好ましい特性が期待できる地域となってはいますが、地下深部の安定性の面で好ましくない特性があると推定される地域に囲まれた狭い地域であることから、また、九州の候補地は炭田等の存在地域で将来の掘削等の面で好ましくない特性があると推定されていることから、夫々、調査をすること自体に疑問が感じられます。
このような観点からは、一旦、候補地が提案されても、役所の管理の一環として、マップ作製等で得られた知見からどのように位置づけるべきか、候補を進めることが適切か、なども検討した方が良いと感じます。
さらに、こういった考慮がないままに政治的な判断で現地調査が推進されるとしたら、仕事の進め方として問題です。最近は役所への就業志願者が減り続けているとのことですが、職場内の作業は指示する側にも受ける側にもしっかりした論理性が確保されていることが前提でしょう。
それと、自治体(市町村など)が名乗りを上げても、道や県等の長は処分場の導入(三段階ある調査の次のステップへの移行)に拒否権を有しているとのことで、前述の両地点ともに道や県の長は調査前から候補地になることに反対を表明しているようで、調査を、国が補助金(税金)を交付して、さらには調査のための費用を支弁して実施するのは理に適っていない(税金や電気代の無駄遣いになる)ように思われます。調査に着手する前にしっかりと対話することが必要でしょう。
さて、前述の地質学の専門家の主張は数十年前からで、昨年末にも国の会議に出席した何人かの専門家が「日本には、プレート境界の変動帯の影響で10万年の安定性を保証できる地層は無い。」などと主張したことが報じられています。国は、活断層や火山は繰り返し同じ地域で活動しているのでそういった地域を避けて適地を探すことは可能と主張しているようです。会議に出席されている色々な分野の専門家である常任の委員の皆様の総括的な意見がどうだったか分かりませんが、プレートという大きな塊の周辺部に関するマクロな話と国土をマップ上でミクロに細分化した話とが噛み合わないままに平行線になっているように感じられ、また、地質学の専門家が自由に発言し易い現役を離れた方々で、一方で、常任の委員の皆様が自由な発言をして役割を果たせているのか、等々も、気になる議論です。
とにかく平行線のような議論を如何に早く脱するか、基本的な前提を先ずクリアにしないと、時間だけがどんどん浪費されます。
人類の将来に影響を及ぼす作業という面では、最終的には国際的にも情報共有すべき作業でしょうから、原子力の先進国はもとより近隣諸国までを捲込んで議論をすることも一計ではないでしょうか。
適地が見付かって地元との方向付けができても、調査、建設から操業までには120年以上が想定されています。NUMOの資料では、その前に難航している再処理を軌道に乗せるという難問もあるようですし、そもそも核燃料サイクル自体の路線も固まっているのか、未来の話として先送りに任せるのではなく、100年、200年先の我が国の姿を想像しつつ、現実も直視し総意を結集した迅速な整理が求められています。
そういえば、先日、テレビで大分県の姫島という小島の風景などが流れていましたが、確か、「30万年くらい前から8万年前くらい前までの間の火山活動によりできた周囲10㎞くらいの島で、八つくらいの火山の痕跡が残っている。」といった紹介が流れていました。何となく10万年という期間の長さがイメージでき、これは大変な長期間だという印象を強くしました。いつもどこかが揺れているような国土に安定性を期待するのは無理というのは本当かも知れません。