思い入れの有無と距離 | 古典技法額縁制作修復 KANESEI

思い入れの有無と距離

 

先日BGM代わりにテレビをつけていましたら、ぬいぐるみ作家の方のインタビューでした。ひとつずつ違う手縫いのぬいぐるみは個展でも即完売で、注文も数年待ちだとか。

その方のぬいぐるみ購入者は女性や子どもだけでなく、大人の男性のファンもいるそうで、家に迎えたら家族のようにペットのように大切にする方が多いそうです。

 

インタビュアーがその方に「自分で作ったぬいぐるみを手放す(売る)のは辛くないか、思い入れはあるのか?」と聞いたところ、きっぱりと「思い入れはしないようにしています。」と答えていらしたのが、とても印象に残っています。

 

 

わたしは小箱や額縁を、まるで自分の分身のような娘のような気持になって、それこそ思い入れ盛沢山でいるのですが、そうではない作家は一体どんな心境で制作しているのだろう?

 

「あえて自分とぬにぐるみに一定の距離を取るようにしています。名前も付けませんし、モノとして扱う。」というようなことを仰っていました。特にぬいぐるみなど、顔があって気持ちを込めやすいものを作っていると、距離を保つのは自分のためにも必要かもしれませんね。

そしてぬいぐるみに名前を付けたり気持ちを込めるのは、購入してくださる方の特権であって、その「余白」は作者が入っていく場所では無いのかも。

思い入れモリモリの品は、人によっては重くかんじるでしょうし。

 

 

「心を込めて作られた品」は、その品物への愛情が豊かでリスペクトもあって、という感じですが、「思い入れのある品」って、執着とか、しぶしぶ手放すような暑苦しさも感じられる・・・

物を物を作って売るからには「心を込めて」が、お客様も自分も気持ちが良いのだろうなぁ。

 

小箱・額縁とぬいぐるみ・・・完成する「もの」は違うけれど、制作する気持ちや「自作のもの」に対する葛藤は共通なものを感じました。

 

そうか、なるほど。手放す前提の品とは心の距離を保つ。

偶然だったけれど、貴重なお話を聞くことが出来ました。