【観劇日記】藪原検校 初日 | kaネとmo観劇日記

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年間200本程の観劇。
その感想やらを忘れないように、記しておこうと思います。

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6/12(火)夜公演 世田谷パブリックシアター ★初日
A列(最前列) サイドブロック


シェークスピアやチェーホフといったスタンダードな作品を除いて、
同じ作品を、全く別のカンパニーで観るのは、あまり記憶にありません。
野田秀樹さんの『農業少女』にしても、
野田さんが芸術監督を務める東京芸術劇場で、
初演で出演していた松尾スズキさんの演出でしたし。

今回、数年前にシアターコクーンで観た蜷川幸雄演出の『藪原検校』。
古田新太さんの杉の市(藪原検校)は、強欲が鼻についてしまって嫌悪感を抱きました。
それが演出の狙いだったのでしょうけど、
全体的に陰にこもった印象が残っていました。
当時『こまつ座』にいらした井上都さん(故井上ひさし氏の長女)も
似た感想を抱いたとおっしゃっていました。

今回は、こまつ座作品常連の栗山民也さんが演出し、
藪原検校を野村萬斎さんが演じ、
笑いを上手に誘うことのできる俳優陣
(浅野和之さん、小日向文世さん、山内圭哉さん、秋山菜津子さん など)が脇を固め、
どんな舞台に仕上がるか楽しみでした。

その作風をコントロールする語りべが浅野和之さん。
一流のユーモアとペーソスが、見事に作品の色を決めていたと思います。

杉の市が披露する芸が、野村萬斎さんの技量と周囲でリアクションする役者さんとで
見事に立ち上がっていました。
これもある意味、劇中劇と言えるでしょう。
その緻密に計算された演出と、それを見事にステージに立ち上がらせる芸の質の高さに
客席が圧倒されていきます。
ただ長台詞を捲し立てているのではないのです。
それが危なげなく、圧倒的なパフォーマンスで迫ってくるのです。
これを体感するだけでも、この公演を観る価値があります。

舞台にはリングのように張り巡らされた赤い綱。
綱は盲人の命綱。
話の展開にあわせて登場する別の綱が、時には白であったり…。
命綱も、別の意味を持ったりします。

また音響が素晴らしいです。
生のギター演奏が入っていますが、これまでのこまつ座作品のそれとは違います。
あの、ギターのボディを叩いて刻むクラップ音が、緊張感を高めていきます。

ラスト。
蜷川演出では、リアルな藪原検校人形が処刑されてグロテスクでした。
今回は、リアルとは真逆な藪原検校が吊されます。
なのに…

吐き気がしました。
本当に。
気分が悪くなりました。
心に何かが刺さったのだと思います。
吊されたあの藪原検校の風貌。
なぜ、アレだったのでしょう。
床に落ちたあの首。
リアルではないあの首にした、その意味をじっくりと考えてみようと思います。


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■追記■
第一幕の杉の市の描き方が、嫌悪感を消していたのかもしれません。
特に、母親を誤って殺めてしまうシーンでは涙を誘います。
あれがあるから、その後の非道の限りも、受け入れられるのかもしれません。