ワルキユーレ 第三幕 二場 4 | 神鳥古賛のブログ

神鳥古賛のブログ

古典。読めば分かる。

 リヒヤルト・ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の日本語版を作成せんとす。

その第一夜「ワルキユーレ」より第三幕二場。

大神ウオータン、ブリユンヒルデへの罰として、無防備に眠れる女として山に捨て置かんと云ふ、見出でゝ目覚めさせし男のものに為すと云ふ。









「ワルキユーレ」 第三幕 二場



(ワルキユーレたち)


 哀れ矣。悲し矣。


 姉(あね)さん、あゝ、姉さん矣。



(ブリユンヒルデ)


 すべて取り上げんとや、


 曾て我れに与へしを。



(ウオータン)


 爾を從へん者、それらをば奪へ矣。


 この山の辺に


 爾をうち捨つ。


 守りなき眠りのうちへ


 爾を封じ込む。


 男ありて乙女をば捕らまへん、


 道に見出でゝ、それ目覚めさせ。



(ワルトラウテ)


 余りなる矣。



(オルトリンデ、グリムゲルデ、シユヱルトライテ)


 おゝ、父よ矣。



(ヘルムウイゲ、ゲルヒルデ、シユヱルトライテ)


 余りなる…



(オルトリンデ、ワルトラウテ)


 余りなる矣。



(ヘルムウイゲ、ゲルヒルデ、ジークルーネ、ロスワイセ)


 …そは呪ひよ矣。



(グリムゲルデ、シユヱルトライテ)


 乙女も末(うら)枯れ朽ち果つや


 人並み色褪せ老いづくや。



(ワルキユーレたち)


 歎くを聞かせ矣。


 恐ろしき父よ、


 思ひ返して


 歎かしき恥を矣。


 爾情けなき、情けなき神ぞ、


 恥を翻して矣。


 姉(あね)さんが如


 我れらも辱めに遭はんず。


 聖乙女も末枯れ


 人並みに老いづかんか。


 姉さんが如


 我れらも辱めに遭はん矣。



(ウオータン)


 爾ら聞こえずや、


 我が言ひ渡しを。


 爾らが会議より


 戯れし姉は追ひ払はれし。


 共に馬に乗り


 空を駆け行かず、この上は。


 乙女たる花やぎも


 末枯れん、その乙女の、


 夫(をうと)となる者へ


 その女房とかしづき、


 あるじ顔の男に


 從ふ日を送る、


 炉端にゐて、糸を績(う)み、


 嘲りの的として、なぶられ。


 成れる果て、おぞきや。


 ならば失せうどを避けよ矣。


 離れゐよ


 かつ遠ぞけよ矣。


 敢へて留まり、


 方うどする者は、


 我れに逆ふ者


 悲しき目を見ん、


 痴れ者の行く先は等し。


 勇ましき者らに此処に告ぐ矣。


 早く此処を去れ、


 この岩場を避けよ矣。


 急ぎ馬を駈り消え失せよ、


 さらずは、おぞき目見せようぞ矣。



(ワルキユーレたち)


 悲し矣。悲し矣。