審判奇譚 第八章14 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「存じ寄らざるよ。」とK云ひ、商うどのうたてしう口早やに云へれば、これとゞめんとて、なだむるがに、その手に己が手を差し置きぬ。


「請ふ、今少し緩らかに云ひ給ひねかし。我れには、いとゞ重々しき事柄ばかり弥や頻けれ。さなん口早やに云ひては、追ひ及かんずる事あたはず。」と。


「それよ、よくぞ云はれたり。」と商うど云ふ、「御前さまは、まだしうひ立ちの丁稚見習ひの如くしありければなん。


訴へ沙汰始まりてより此の方、年の半らなれ。こは、そも、聞き及びたり。まだし、生まれ立ちの産養ひなるかなや矣。


それがしはと云へば、はや、かゝる沙汰の事を五百よろづ千よろづたびに亘り思ひ巡らし来たりしか。


既にして此れらの事は、この世にて、いとゞ明らけくもあからしきものとなりしかな。」となん。


「はや、訴へ沙汰も、かくこそ進みゐたれば、爾もさぞや嬉しかるべけれ。」とK問へど、こは、商うどの事のわづらひの、まさに今のさまは如何なりしか、これ慎みなく問はんが憚られければなり。


しかるを、いらへする方も、等し並みにおぼろなりけれ。


「しかりけるかな、五つとせがあひだ、それがしが訴へ事をまろばしてけるかな。」と商うど云ひて、うなかぶし、「並みひと通りにては無かりしか。」とよ。


さては、彼れ、しましく口閉ぢにけれ。Kは今しレニ、これ帰り来たらんかと耳をそばだてぬ。かつは、をみなの帰り来たらんとするをよろこばず。


更に聞かまほしうする事さはにあり、商うどとかゝるさまにうち解けて語らへる有りさまを、レニに見咎められん事も憚られければなり。


かつうは、しかは云へ、己れ此れにあるにも関はらず、弁護の士のもとに入り立ちて、帰り来たらざるが腹立たしけれ。


汁の物さし置かんばかりならば、はや、疾う疾う仕舞ひたるべきに。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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