審判奇譚 第八章8 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 K、をみなの後ろ姿を見送りゐたり、かつ弁護の士を解くべき心のほど、今ぞ、いよゝ思ひ定めてき。


先んじてレニと語らはん事、はや叶はずなりにしも、さる方、良き仕合はせと云ふべきにや。


をみなには、事の心のすべてに思ひ至らん事、あり得まじければ、語らはんに、およそ留まるべうこそ云へ、此度は或ひは、Kにもまこと、解き放しを思ひ留まらしめしやも知れず。


しかりければ、後々、惑ひと悩みとの虜となるに留まり、挙げ句はやがて、再び此の心のほどを然らしめんとすなるべし。


何とならば、この心のほどは、およそ巳むに巳まれざるものなればなり。


しかるを、然らしむる事、即ち速やかならんには、損なはれんとする事、またわづかに留まるべし。


さもあれ、これぞ此の商うどにも、何ぞ此れに思ふ処、云ふべき事あるやも知れず。


 K、振り返るぬるに、商うど、これに心付くや否や、即ち立たんとす。


「ゐたり給へかし。」とK云ひ、肘掛け椅子を男のそばに引き寄せつ。


「爾はそも、長きにわたり、これなる弁護の士を頼うでゐたるや。」とK問ひぬ。


「しかり。」と商うど云ひぬ、「いたう古き頼み手なる。」と。


「いくとせがほど、かの人に名代を頼うでゐたるや。」とK問ひぬ。


「何事を申さんとするや、はかり難けれど、」と商うど云ひて、「商ひのうへの公事沙汰にては━━それがし、種つものを商へど━━


これなる弁護の君、それがし、商ひを始めし時よりこのかた、さすれば、はたとせ余り、それがしの名代を勤めさせ給ふ。


御前さまの仰せらるゝは、思ふに、それがしがうへの訴へ沙汰なるにや、これまた初めより、さすれば、はや五つとせを越えけれ。


しかり、五つとせ余りと云ふとも、あなや、並みならぬ事なりしか。」となん。


さても云ふをやめず、古き紙入れ取り出だし、「これにすべて書き入れてあり。お望みとあらば、日付も詳しく申さなん。


さすがに、すべてを覚ゆるわけには参らざればよ。それがしが訴へ事、あな憂、遙か先より続きゐたるかな。


妻を失なひたるや即ち始まりしなるは。さすれば、はや、いつとせと半らを過ごしたるとこそあれ。」となん。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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