審判奇譚 第七章70 | 神鳥古賛のブログ

神鳥古賛のブログ

古典。読めば分かる。

 「やがて、また訪なふべし。」と云ひて、K、にはかに思ひ立ちて、上着を着、外套を肩へ羽織りて、扉へと急ぎぬ。

 

しかるに、扉の向かふ、をみな児ら叫び声をあげ囃しぬ。Kには、叫びゐるをみな児らを、扉のさきに見るの思ひ為しぬ。

 

「さりながら、云ひたるまゝに為されざればならざるべし。」と絵師、Kを追ひ来たらずして且つ云ひぬ。

 

「さらずば、こなたより、この事確かめんとて、両替屋へ押し掛けうず。」と。「請ふ、扉の鍵をあけさしめ。」とK云ひぬ。

 

さて、取つ手を引きしかど、あらがふ力働きたりと覚えしかば、これ、そとなるをみな児ら、しつかと支へゐにけるなれ。

 

「わく子ら、いとゞさやげり、良きや。」と絵師問ひぬ。さて、「この戸口を用ゐん方、良からん。」と云ひて、寝台の後ろなる扉を指しぬ。

 

K、うべなひて、即ち、飛ぶが如くに寝台のもとへと行きぬ。しかるを、絵師、扉を開かんとはせで、寝台の下も辺にうずくまり、下たより斯く問ひぬ。

 

「暫し待たれい。絵を今ひとつ、御覧じまさずや。良きとならば、汝れに譲らんともまゝよ。」と。

 

K、ゐやを欠いたる如き物腰は然らずと思ひぬ。絵師はまこと、彼れの身を承け引きたれ、行く行くの助けも請け合ひたり。

 

更には、こなたのもの忘れのしだらなきに、この助けによる報いの手当てすら、おくびにも出ださで巳みぬ。むげなく否ぶべきかは。

 

されば、彼れ、絵描きの室を後とにせんとの思ひ募り募りつゝも、絵をば見掛けんと思ひ成りぬ。

 

絵師、寝台の下も辺より、枠に入れあらざる絵を束も嵩に持ち出だせど、いたく埃積もりあり、

 

即ち、絵師、うへなる絵の埃を吹き払はんとするや、この埃、Kの目の当たり、彌頻くしくに舞ひ舞ひて、息吐くいとまも無し。

 

 

 

 

 

 

 

https://m.facebook.com/mitsuaki.yamaguchi.92?ref=bookmarks

 

フォローしてね…フォローしてねフォローしてね!アメンバー募集中ペタしてねペタしてね