審判奇譚 第四章6 | 神鳥古賛のブログ

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古典。読めば分かる。

 「しかるなれ。」と娘モンタルク云ふ、「或るはまた、翻つて、しかる事あらざらましを。汝れが申しやう、不思議とあざやぎたるもの哉。

それ、常の世には、話し合ひと云ふもの、請けがひて及ぶべきものにあらざれば、この逆にてもあらざれ。さはれ、話し合ひに及ぶまでもなしと思ふ事またありなんとし、これぞまさに然るべけれ。

 

汝れが言葉を承り及ぶに至り、我れもあからさまに申し述ぶるを得ん。汝れ、我が友どちに便りもてか、もしは口づから、話し合ひを請ひ求めたれ。

 

さりとも、我が友どち、この話し合ひたる、何用なるかを知りたれ。少なくも我れ、しか推し測らずんばならず。

 

しかるを、為に、友どち、我れのあづかり知らぬ諸もろの訳あつて、よし此の話し合ひのまこと行はれうとも、そはそれ、何ぴとを益するものにあらずと、しか思ひ定めゐたれ。

 

さはれ、我れ、彼の人より此の話を聞きしは、わづかにきのふに及んでの事にて、しかも、わづかさはりのみなる。

 

その時し、彼の人、申したりしは、この話し合ひたるは思ふにK殿にも然程要すべき事にもあらね、何故と云へ、K殿、偶さか、かゝるを思ひ寄りたれ、さなきだに、我れの敢へて云はずとも、かゝる事、如何にあぢきなき徒だ事なるかを、今にはあらずとも、いづれみづから覚り召さるべし、と申したり。

 

我れ、これに答ふるに、しかめやも、さはれ、K殿にはしかと返り事なさんが、事を確かになさんに如くべからざらましを、と申したれ。

 

我れ、この役を引き受けなんと申し出づれば、彼の人、やゝ躊躇ひて、しかるのち承け引きぬ。

 

我れに於いては、かくて汝れが為にも、その心にかなふ振る舞ひなりしと思ひゐたれ。

 

その何ゆゑか、如何にあはつけき事柄なりとも、わづかだに心の晴れぬ事あらば、悩みに沈む事あれ、今この如くに、容易う打ち消たん事を得るならば、即ち、その場にて打ち消たんに如かざればなん。」となん。

 

「あはれ、かたじけなくもある哉。」とK、即ち云ひ、おもぶるに立ち上がり、さて、娘モンタルクのおもてに見入り、次いで卓のうへ、それより窓の外(と)へとまなこめぐらせ――向かひ家は陽に照らされゐぬ――、扉へと歩み行きぬ。

 

娘モンタルク、彼れの心のうち、未だすべて尽くさずとてや、ふた足三足、そのあとを慕ひぬ。ここに於いてか、扉の前にてふたり、あとへしぞかざるを得ずなりぬ。自づと扉ひらき、大尉ランツ入り来たればなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

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