今年は、敬愛しているミュージシャンの方々がお亡くなりになることが当社比で多かった気がする。

初手からテレヴィジョンのトムヴァーレインのご逝去に少なからずショックを受け、翌月バートバカラック御大が…えーまだディスコグラフィー集めてる途中だったのに!と悲しくなり、アストラッドジルベルト、ジェーンバーキン…一時期よく聴いていたアーティストというのは、自分のそのころの記憶に閉じ込められたまま、年をとらないものだと錯覚していたことに気づかされたりもした。

もうさすがにないだろう、だって12月まで来てるし…と思っていたのにな。

 

Shane MacGowan(1957/12/25ー2023/11/30)

 

イギリスが愛したThe Poguesのフロントマンにして、酒と煙草と薬を人生の傍らに置いた男。長年の不摂生が祟ったのは明らかで、かなり前から体調を崩していたことは知っていたけれど。でも66まで生きたんだな。

 

「ケルティック・パンク」と形容されるポーグスは、歌の内容はパンクだけどメンバー編成がバンジョーやマンドリン、アコーディオン、アイルランド民謡に多く用いられるティンホイッスル、フィドル(ヴァイオリン)と、唯一無二のバンドだった。

MTVかなにかでライブ映像を見た時は、最初は変わり種かあという印象だった。

でも、シェインががなるように歌い出した時のかっこよさときたら。

変わり種とか思ってゴメン。ポーグスはそしてこのシェインマガウアンという男は綿々と連なるロックの伝説に加えられるべき存在だったのだ。

ライブの観客があちこちで手をつないで輪になって楽しく踊る光景には憧れた。

自分がその場所にいたら、酒飲んでぐるぐる回って、ライブ後帰路に就く途中で粗相をするのは確実だっただろうな、なんて想像したりもした。

シェインの風体もまた良かった。

ヨレヨレでいつも酔っぱらってるような顔をして、歯並び最悪。BBCでシェインの歯の治療を追いかけたドキュメンタリーまで作られたほど。でも人間性の善悪を超えた魅力を感じる男だった。

(前歯がっぱりない時期があって、これじゃあんまりだと治療して、晩年はきれいな歯になってた)

 

この週末はイギリス人が愛してやまないクリスマスソングであり、ポーグス最大のヒット曲となった「 Fairytale of New York」が世界中で聴かれるのだろう。そして世界中のブログにこの動画が貼られるのだろう。まだクリスマスには早いのに…

 

 The Pogues feat. Kirsty Maccoll-Fairytale of New York(1988)

 

It was Christmas Eve, babe         あれはいつかのクリスマスイヴ   
In the drunk tank          俺は酔いつぶれて留置場の中
An old man said to me       そこにいたじいさんが俺に言ったんだ
Won't see another one       こんなとこもう誰も来ないよな
And then he sang a song      そして歌い始めた 俺の故郷の歌
The Rare Old Mountain Dew    「レア・オールドマウンテン・デュー」を
I turned my face away        俺は顔を背けて
And dreamed about you       君の夢を見たんだ

 

Got on a lucky one          運が良かった
Came in eighteen to one       配当は18倍
I've got a feeling           今年の俺と君には何かあるって
This year's for me and you      そんな予感していたんだ
So happy Christmas!         ハッピークリスマス!
I love you baby            君を愛してる
I can see a better time        俺たちの夢がかなう
When all our dreams come true    良い未来が見えたんだよ

 

They've got cars big as bars      長くて大きな車に乗っている人たち
They've got rivers of gold       彼らは金が流れる川を見つけたのね
But the wind goes right through you  でも風があなたを吹き抜けた時
It's no place for the old         もう年寄りの居場所はなくなった
When you first took my hand      あの寒かったクリスマスイヴに
On a cold Christmas Eve        初めて貴方の手をとった
You promised me Broadway was waiting for me  貴方はわたしに言ったのよ

                   「ブロードウェイが君を待ってる」ってね

                   

You were handsome          貴方はハンサムだった
You were pretty            君だって可愛かった 
Queen of New York City        NYの女王だった
When the band finished playing    バンドが演奏を終えても
They howled out for more       客はもっとやれって叫んでた 
Sinatra was swinging         シナトラもノッていた
All the drunks they were singing    すべての酔っぱらいどもが歌ってて
We kissed on a corner         その片隅で俺たちキスをして
Then danced through the night    それから夜通し踊ったね

 

The boys of the NYPD choir      ニューヨーク市警の聖歌隊の男の子たちが
Were singing "Galway Bay"      「ゴールウェイ・ベイ」を歌う
And the bells were ringing out     鐘が鳴り響く
For Christmas day           クリスマスの夜に

 

You're a bum                 アンタなんかクズ
You're a punk                 アンタなんかロクデナシ
You're an old slut on junk           オマエだって薬中の売春婦だろ
Lying there almost dead on a drip in that bed 点滴打ってる寝たきりの死にかけ
You scumbag, you maggot           カス野郎、ウジ虫
You cheap lousy faggot             ケチなオカマ野郎
Happy Christmas your arse        ハッピークリスマス、アンタのケツ
I pray God it's our last          これが二人の最後になりますように

 

The boys of the NYPD choir      ニューヨーク市警の聖歌隊の男の子たちが
Were singing "Galway Bay"       「ゴールウェイ・ベイ」を歌う
And the bells were ringing out      鐘が鳴り響く
For Christmas day            クリスマスの夜に

 

I could have been someone                     俺は違う何かになれたはずだ
Well so could anyone          ええ、誰だってそうよ
You took my dreams from me      アンタはわたしから夢を取り上げたのよ
When I first found you         わたしがアンタを見つけた時にね
I kept them with me babe        その夢を俺はまだ持ち続けてるよ
I put them with my own         俺自身の夢と一緒にね
Can't make it all alone          俺一人じゃ成し遂げられないよ
I've built my dreams around you    君のそばで夢を築き上げていくんだ

 

The boys of the NYPD choir      ニューヨーク市警の聖歌隊の男の子たちが
Were singing "Galway Bay"      「ゴールウェイ・ベイ」を歌う
And the bells were ringing out     鐘が鳴り響く    
For Christmas day           クリスマスの夜に

 

 

この歌を愛するイギリス人の「らしさ」に感心してしまうw

この歌に出てくるふたりはアイルランドから大きな夢を持ち移住してきた男女。

とにかく金持ちになりたかった男と、ブロードウェイでスターになりたかった女が、夢に破れ老いぼれ、こんなはずじゃなかった、あんたのせいで、だけど…

この二人は結局そうやって添い遂げていくのかな、と思った。

 

このPVの冒頭で飲んだくれたシェインを牢にぶち込むのが、当時ポーグスの大ファンを公言していたマット・ディロン。

何度も出てくるバグパイプ隊に見られるように、NYの警察(消防も)はアイルランド系が多い。移住当時の事情や情勢もさることながら、血の気の多いその気質がみこまれて、という側面もあったようだ。彼らに対するリスペクトが感じられるシーンでもあったのではないか。歌の途中の罵り合いのひどさに、BBCが放送禁止曲として取り扱った時期があったようだが、今はどうなのだろう?まあ、この時代テレビやラジオがなくても好きな曲が聴けるからあまり関係ないのかな。それに、汚い言葉の奥に隠れているふたりの愛情や、年の瀬のNYの情景などまさに"Fairytale"のように輝いて描かれているのだから。

 

そして、デュエット相手のカースティ・マッコール。

イギリスのシンガーソングライターで、当時ポーグスのアルバムのプロデューサーだったスティーヴ・リリーホワイトの妻でもあった。その由縁からこの曲のデュエット役を引き受けた。彼女は「アーティストに愛されたアーティスト」。数多くの有名なアーティストとセッションし、バックアップをし、もちろん作詞作曲の才能にも満ち溢れた女性だった。ただ、数々のレコード会社と契約上のトラブルに巻き込まれることが多く、不運ともいえた。

リリーホワイトと別れた後も精力的に活動をしていたが、2000年に休暇中のメキシコで不慮の事故により死去。モーターボートに轢かれそうになった息子を助けて犠牲となったのだった。41歳だった。

この事故の裁判は、過失側に不可解な点が多く、そして賠償額についても疑念が残る判決となった。そのモーターボートは現地メキシコの富豪が持ち主であり、運転していたとされる人物は富豪が経営する会社の従業員だったという捜査結果に多大な疑問が生じていたということだ。メキシコの法律に基づき、その従業員の賃金に準じた金額がカースティの遺族に賠償された。その額2150ドル。たった、である。

従業員はモーターボートを運転していなかったという目撃証言が後になって出てきたり、「誰か」の身代わりに逮捕されその後金銭を受け取ったという報道もあった。

遺族がこの事件に対するキャンペーンをはり、色々な運動を繰り広げた。

ポーグスはそのキャンペーンを支持し応援し、活動を助けたのだった。

(スティーヴ・リリーホワイトが初期のアルバムを多く手掛けたU2もまた、この活動に賛同していた)

2009年、ボートの持ち主が亡くなったのが契機となり、活動は終了している。

多くの賛同者から集まった活動資金はメキシコとキューバの慈善団体に寄付された。

 

PVの中で、窓辺に拗ねたように座っているカースティをヨロヨロと迎えに行くシェイン。そして、ふたりが抱き合い踊るラストシーン。

 

年をとると涙腺が弱くなるって本当の事だったんだな、とこのPVを見ていやになるほど理解したよ。