北野武とハリウッド。 | プールサイドの人魚姫

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うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
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プールサイドの人魚姫-たけし

映画の楽しみ方を大別すると二通りになると思う。

娯楽性と芸術性。この両方を兼ね備えている作品が所謂「名作」と呼ぶかは別としても、見る側の感受性によって受け取り方は異なって来る。

先日、ロサンゼルスで行われた「第82回アカデミー賞授賞式」で、6部門を制覇した「ハート・ロッカー」が興行収入成績を塗り替え話題となった「アバター」を大差で破り圧勝した。

ハート・ロッカーは、イラク(バクダッド)を舞台に、「湾岸戦争以降」のイラク情勢を背景にしつつ、その戦地に赴く若き兵士たちの姿をドキュメンタリータッチで描いている。

似たような戦争映画に「ブラック・ホーク・ダウン」があるが、ハート・ロッカーの主人公はこれまでの兵士とは異なる「爆弾処理班」である。

古い潜水服のようなスーツに身を纏い、時間との勝負に生死を掛けた姿は、極限状態の人間心理を鋭く描写した作品として仕上がっている。

シーンは淡々と進み、特に際立った場面がある訳ではないが、そこに広がる戦争のリアルさがこの映画を見終わった後、ズシリとした鉛のような重さで見る者の心に残るのではないだろうか。

わたしはこの両作品を観ているが、「アバター」をもう一度観たいとは思わない。

この二つの作品に共通点は幾つか見出せるが、ハリウッド特有の資金力で映画を作る手法にあまり馴染めないのである。

娯楽作品としては大いに楽しめるが、心の奥に深く残る印象はない。

3Dで表現する必然性が見受けられないし、その世界観で言うならば、宮崎アニメが既に十分過ぎるほどに表現しており、「天空の城ラピュタ」や「風の谷のナウシカ」或いは「もののけ姫」等を3D化した程度に感じられたのが本音である。

もちろん「アバター」がこれからの新しい映画の幕開けとしての役目を果たして行く事は十分認める所ではあるが、長い時を経ても色褪せる事のない作品こそが「名画」「名作」と呼ばれる所以ではないだろうか。

アカデミー賞とほぼ同時期に、フランスのパリでは映画監督のタレント・北野武氏が話題に上っていた。

フランスの芸術文化勲章「コマンドゥール」を受章したからである。

北野武氏は欧州に於いて「巨匠」として広く知られており、1997年にはベネチア映画祭で映画「HANABI」が金獅子賞を受賞している。

俳優でもある彼が出演した作品で最も印象に残っている作品は、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」。坂本龍一の音楽もさることながら、ビートたけし扮する「ハラ軍曹」が、英国陸軍捕虜の「ジョン・ロレンス」に「メリークリスマス・ミスターロレンス」と笑顔を交えて語るシーンが記憶の底に焼きついている。

ハリウッド映画にはない日本人特有の描写力は心の琴線に触れるには十分過ぎるほど繊細だ。

20代の頃、わたしは日本映画の「ATG(アートシアターギルド)」作品にのめり込んでいた。

「ATGを観なくして映画を語るなかれ」などと生意気な映画評論家を気取っていたものである。

北野武がハリウッドで映画を創ったら、どんな作品が出来上がるだろうと興味津々ではある。