天使がくれたピアノ(第4楽章) | プールサイドの人魚姫

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うつ病回復のきっかけとなった詩集出版、うつ病、不登校、いじめ、引きこもり、虐待などを経験した著者が
迷える人達に心のメッセージを贈る、言葉のかけらを拾い集めてください。

救急車「トラステ賞」
天使がくれたピアノ 第4楽章

サイレンと共に救急車が私の返り血で染まった母と私を迎えに来た。普段は静かで喉かな田園風景が広がる田舎町、私と母を乗せた白い車がサイレンを轟かせ、静かな国道を走り抜けて行った。車の中で母は泣いていたわ。ぽろぽろと私の顔に大粒の涙が零れおちたの。包帯でぐるぐる巻きになった小さな左手が倍くらいに膨れあがっていた。私の泣き声と母の押し殺した呻きにも似た声が車の中で乱反射を繰り返す。「しっかりして下さいお母さん…、もう直ぐですから」同乗している救急隊員が母を励ましていた。母はきっと自分を責めていたのだと思う。でもね、私から見れば母は何も悪くはないわ。ゆりかごから飛び出して輪転機の誘いに乗った私がいけないの。そうでしょ?お母さん。私は何も命まで奪われる訳じゃないのだし、指の一本くらいなくても生きていけるもの。だからお母さんもう泣くのを止めて頂戴。救急車が病院に着き、外科外来に運び込まれた。指が残っていれば繋ぎ止める事も可能だったかも知れない。