#69 筒井康隆「乗越駅の刑罰」 | 漂流バカボン

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筒井康隆という作家を知ったのは、自分が中学1年か2年の頃だったと思います。




それまで、SFもしくはショートショートというジャンルでよく読んでいたのが、星新一でした。


星新一のショートショートは、未来に題材をとったり、いわゆるSF(サイエンスフィクション)的な内容が多く、また文体も簡潔で、小学校高学年から中学生になるあたりの自分にとっては「丁度良い」読み物でした。




そのころ、いわゆるSF御三家として、星新一・小松左京・筒井康隆の3人がいましたが、小松左京は『復活の日』や『日本沈没』など、大作が多く、『首都消失』は読んでみましたが、あまりハマることはありませんでした。




そして、筒井康隆ですが・・・。




まず最初は星新一と同じような「ショートショートを描くSF作家」というくくりかな、と思って何気なく読んだ短編集で、その面白さをたたきつけられます。




まず凄いな、と思った短編は、「傷ついたのは誰の心」。




「それは新婚二年目の夏のことでした。」で始まる短編、文体は淡々としているのですが、そこでは異常というか受け入れ難いことが次々と起きます。それに巻き込まれていく主人公が、一体この事態で誰が一番傷ついているのか?という事を考えていくのですが、この時の、哀しみと諦念に満ちた主人公の思考過程が、これまで読んだことのある物語にはない「不条理」に満ちていました。




この短編、実はのちに「筒井漫画瀆本」の中で蛭子能収が漫画でカバーするのですが、確かに漫画の内容はまんま蛭子さんの不条理に通じるものがあります。




これをきっかけに、次々と筒井作品を読みたくなりまして、書店に寄っては筒井作品を買い漁っていました。中にはエログロの内容のものや、現在では発表すらできないであろうというタブーに触れそうな作品もあり、中学生には刺激が強い作品もありました。




でも、どの作品も滅法面白く、例えば「走る取的」で延々とお相撲さんに追いかけられる恐怖、「熊ノ木本線」のやっちゃった感、「家」や「遠い座敷」の、民話的でもあり、また子供の頃の夢に出てきそうな幻想的な感じ。




そんな中で、自分が一番衝撃を受けた作品、それが「乗越駅の刑罰」です。




分類すると、「不条理ホラーもの」になるのでしょうが、まずこの作品の怖いのが、主人公が結果的にしてしまった無賃乗車(本来は事情を話せば理解できるたぐいのこと)を責める駅員の執拗さです。




この執拗さは、筒井康隆の他の作品にも時々顔を出すのですが、この作品における駅員の主人公への攻撃は、すさまじいものがあります。もし自分がこの主人公の立場だったら・・・と思うと、冷や汗どころか、恐怖で身もすくみます。




それに加えて、この作品が怖いのは、主人公(久しぶりに故郷に帰ってきた流行作家)が、次第に今回の無賃乗車の件のみならず、自分が今まで知らず知らず行ってきた「原罪」にまで言及され、その罰を受ける羽目になる、という展開です。




この作品を読んでいると、自分が主人公に感情移入すればするほど、自分ももしかすると同様な状況で罰を受けるかもしれない、など思えてくるのです。




そして、通常ではあり得ない結末の異常さも、「罪を償う」ことがテーマであるなら、この作品のエンディングとしてはこれしかないと感じられます。読後の後味はめちゃめちゃ悪いですが・・・。



その後も、筒井康隆の作品から、自分は有形無形の色々な世界の観方を教わりました。また別の機会にお話しすることもあるかとも思いますが、この作家の頭脳は、自分にとって到達することが到底叶わぬ大宇宙のように思えます。


そしてそんな自分は、その後筒井康隆のリアルタイムの読者になり、今に至ります。今や筒井康隆御大は80歳を超えましたが、いまだに執筆活動も旺盛ですし、また木曜日の夜に関西地方でOAされている「ビーバップ・ハイヒール」に元気に出演している姿を見れるのも嬉しいです。




ちなみに、勿論全集もそろえています。