QUEENの「We Will Rock You」については以前からU2の「With or Without You」同様にCDの歌詞カードやネット上の既存の翻訳にしっくり来ていませんでした。

 それで自分で文法をきっちり調べて翻訳してみようと思い立ちマスタリーやらニューアンカーやら引っ張り出してやってみたものの、英語の歌詞ってピリオドがないからどこが文頭なのか全然わからない!

 どこが文の始まりでどこが終わりかあらゆる可能性を考えて一個一個潰していくので時間がかかるかかる。

 では、その昔、大学入試センター試験の英語100点満点中30点だった私の翻訳をご覧ください。

 

 まず最初

 

 Buddy,  you're a boy .

 おいオマエら、オマエらは餓鬼だ。

 Make a big noise playing in the street .

 道で遊んで大きな騒音を出してろ。(命令)

 gonna be a big man someday.

 オマエらいつか大物になるつもりか?(文頭Are youの省略)

 

 既存の訳だと「相棒、オマエは今は遊んでいるだけの少年だがいつか大物になれよ」

 みたいなポジティブな翻訳が多いです。(というかポジティブな翻訳以外見たことがありません。)

 ですが私はとりあえずそのままストレートに訳してみました。

 あと一段目のyou are a boyとmake以下を一文としてつなげて翻訳しているパターンも多かったのですが、そのmakeに三単現の「s」が付いていません。

 関係代名詞thatを省略している一連の文であるなら先行詞a boyに対して必ずmakeに三単現の「s」が必要です。

 もしくはa boyを修飾する分詞構文であるならmakingもしくはmadeでなければなりません。

 つまりこの場合のmakeは文頭である。

 すなわち命令文という解釈が正しいように思います。

 (「you」を補語が単数であるにも関わらず「オマエら」と複数形で訳していることに関しては最後に説明します。)

 

 そしてその後の gonna=going to こっちは最初からingなので「いつか大物になれよ」みたいな命令文にはなりえません。

 他には「いつか大物になるだろう」みたいな翻訳も多いですが、だとしたらYou'll be a big man somedayと言うべきでしょう。

 正確にing形として訳すと可能性は4パターンあります。

 ①現在分詞の形容詞的用法…「いつか大物になる道で遊んで大騒ぎしてな。」

 ②現在分詞の副詞的用法…「いつか大物になるから道で遊んで大騒ぎしてな。」もしくは後ろの文にかかって「いつか大物になるからオマエらは顔に泥がついたんだ。」

 ③動名詞…「いつか大物になること。」

 ④口語表現のAre you gonna be a big man someday?のAre youを省略したもの…「オマエらいつか大物になるつもりか?」

 何故か④の形の訳は今まで見たことがありませんが多分これが正解だと思います。

 そして次

 

 You got mud on your face.

 オマエらは顔に泥がついてる。

(泥がついたのは過去の現象ですが現在はそれによって汚れている状態なのでそう訳します。)

 You (are a)big disgrace kicking your can all over the place.

 オマエらは、どこかしこでカン蹴りしてる大恥晒しだ。

 

 ここまで既存のポジティブ解釈をしていた人達は突然「オマエらは顔に泥がついてる。オマエらは大恥さらしだ。」となじられて困惑する部分です。

 まぁそれさえも「大恥晒しだっていいじゃんか!」みたいに翻訳されているのですがもしそうであるなら歌詞としてあまりにも言葉が足りなすぎますよね。

 しかもdisgraceってgrace本来の意味の逆として捉えると「卑しい」って意味ですからね。

 しかも1番~3番まで三回も「オマエらは卑しい」って断言している。

 もし「卑しくてもいいんだ」って意味ならクリエイターはちゃんと「卑しくてもいいだろう!」とか「卑しいから何だ!」って書くと思うんですよ。

 あと顔に泥がついているという表現も

 

  1番 → 少年の顔に泥がついている

  2番 → 若者の顔に血がついている

  3番 → 老人の顔に泥がついている

 

 …を踏まえると「顔に泥を付けたやんちゃ坊主」というような軽い意味ではなく「汚いことをして生きてきた」「他人を傷つけて生きてきた」ことが顔に出ちゃってますよ?…的な意味にとるべきだと思います。

 あとカン蹴りもing形なので「カン蹴りしようぜ」みたいな遊びの誘いではありません。

(調べてみると欧米には日本のカン蹴り鬼みたいな遊びは無いそうです。代わりにブロック蹴りという遊びがあるそうな…なのでカン蹴りは不満を抱えている人が下を向いてカンを蹴りながら歩いているイメージでしょう。)

 文法的には

 ①現在分詞の形容詞的用法…「オマエらはそこらでカンを蹴っている恥晒し」

 ②現在分詞の副詞的用法…「そこらでカンを蹴っているからオマエらは恥晒し」

 で…どちらにしても似たような罵倒の意味になります。

 

 え?…これってそんな罵倒の歌なの?何で?と思われるかもしれませんが、この後のサビで全てがひっくり返るしかけがあるのです!!!!

 でサビ…

 

 singin’=singing

 歌っている…   →現在分詞形容詞的用法 もしくは

 歌っているから… →現在分詞副詞的用法

 We will

 俺たちには意志がある。

 We will rock you.

 俺たちはオマエらを揺さぶるんだ。

 

 このsingingを既存の訳だと「歌え」とか「歌おうぜ」みたいにワザワザ原型のsingに脳内で描き換えて翻訳するパターンが多いのですがちゃんとingとして訳さないとせっかくing形で歌っているフレディが可哀想です。(作詞のブライアンも)

 

 つまりこの歌のAメロは白けてるヤツら=youを徹底的になじっており、最後のサビで俺たちと一緒に歌うヤツら=weだけが世界を動かしているんだと言うわけです。

 you=音楽を愛さない者、歌わない者、白けている者

 we=クイーン、ファン、音楽を愛する者、歌う者

 と言うような対立構造で歌詞が構築されているのでyouとweを混同してしまうと曖昧でパワーの無い歌詞になってしまいます。

 聞き手は最初「you」としてなじられて戸惑いますがサビで自分は「you」サイドではなく「we」サイドの人間だと気付いてフレディと一緒に「you」を熱く罵倒する側になるのです。

 そして最終的に全ての人間が「we」となれば世界が変わるという仕掛けです。

 「歌え」とか「歌おうぜ」とか「you」に対するお願いじゃなくて「歌っている俺たちが…」「歌っているからこそ俺たちが…」と「we」を鼓舞しているのがカッコいいじゃないですか。

 あと

    youに対してはbe+going+to(意志・努力のいらない「するつもり」)を使って

    weに対してはwill(意志・努力の必要な「するつもり」)を使うところもワードセンスが光ってる!

 

 さてそれらを踏まえて全体を訳すとこうなります

 

 「We will rock you」

 

 Buddy,  you're a boy .

 おいオマエら、オマエらただの餓鬼だ。

 Make a big noise playing in the street .

 道で遊んで大きな騒音を出してろ。

 (Are you) gonna be a big man someday (?)

 いつか大物にでもなるつもりか?

 You got mud on your face.

 オマエらは顔に泥がついてる。

 You (are a) big disgrace kicking your can all over the place.

 オマエら どこかしこでカン蹴りしている大恥晒しだ。

 

 

 Singin’ We will.

 歌っているから俺たちには意志がある。

 We will rock you.

 俺たちはオマエらを揺さぶるんだ。

 

 Buddy,you're a young man,hard man shouting in the street.

 おいオマエら、オマエらは若造で、道で叫んでいる乱暴者だ。

 (Are you) gonna take on the world someday (?)

 いつか世界を背負うつもりか?

 You got a blood on your face.

 オマエらは顔に血がついている。

 You (are a) big disgrace waving your banner all over the place.

 オマエら 場所もわきまえず横断幕振ってる大恥晒しだ。

 

 We will.

 俺たちには意志がある。

 We will rock you.

 俺たちはオマエらを揺さぶるだろう。

 

 Buddy,you're an old man,poor man pleading with your eyes.

 おいオマエら、オマエらは老いぼれで、目で哀れみを乞う貧乏人だ。

 (Are you) gonna get you some peace someday (?)

 いつか平穏を得るつもりか?

 You got a mad on your face.

 オマエらは顔に泥がついている。

 You (are a) big disgrace.

 オマエらは大恥晒しだ。

 Somebody better put you back into your place.

 誰かがオマエらを居るべき場所に戻してやるべきだ。

 

 We will.

 俺たちには意志がある。

 We will rock you.

 俺たちはオマエらを揺さぶるだろう。

 

 そりゃあ観客は全員歌いますよね。

 Weとして歌わなかったら卑しい「You=big disgrace」なんだから!

 ちょっと涙が出るくらい熱い歌詞です。

 

 さて「you」を補語が「a boy」「a young man」「an old man」という単数であるにも関わらず複数の「オマエら」と訳していることに関して説明いたします。

 理由は「we」の歌詞上の対極となるワードが「you」だからです。

 では主語が複数で補語が単数という英文は文法的に有りか無しか…色々調べた結果

 そのような表現自体は”有る”そうです…ただし補語が”個々”の属性や特性・特徴・状態を強

 例えば「彼らは生徒です。」という日本語を英文にする場合

 

 They are students.

 彼らは生徒(たち)です。

 

 と言う表現が一般的ではありますが

 

 They must study because they are a student. 

   彼らは勉強しなければならない、何故なら彼らは生徒であるから。

 

 というように個々の属性や特性・特徴・状態を強調したい場合、主語が複数で補語が単数と言う表現が有るそうです。

 なのでこの曲の中における「a boy」「a young man」「an old man」は正に「you」の属性を指摘する部分なので「オマエら」と言う訳は有りだと思います。(単数で訳しても良い歌詞には変わりませんが)

 あとピリオドの位置は文法的に分析した上での推測ですので信じるも信じないもアナタ次第です!