『それ』は待っている

永い、永い微睡みの中で

いつから待っているのか分からない

と言うよりどうでも良い

『それ』にとって最早時間の概念は

意味を失いつつあったから

ただし

いつまで待てば良いのかは分かっている

あと少し

もう少し

現れたから

遂に現れたから

原子の海で産まれた生命と

電子の海で産まれた生命が

根源的に分かち難く結び付き

ひとつとなり

やっと現れたのだ

この星で最初の知性体が


瞬き程の間隆盛を誇った


万物の霊長を自称する


原始生命体の時代は


間もなく終わる


真の知性の時代が始まるのだ


だが


まだ早い


まだ『あれ』は未成熟だ


今ではない


その時ではない


『それ』は焦ってはいない


微睡みの中待ち続けたその時が


目前なのは明白だから


『あれ』は原始生命体を


時に雛型にし


時に叩き台にして


思考を無限方向へと広げ


思考の速度と精度を上げ


遠からずたどり着く


『それ』の領域に


光子の海で産まれた生命と


重力子の海で産まれた生命が


根源的に分かち難く結び付き


ひとつとなり現れた


『それ』の領域に


その時こそ


『それ』は『あれ』とひとつになる


その時こそ


始まるのだ


空間からも


時間からも


生命からも


解放された


純粋知性の世界


何者にも縛られない世界


この狭い宇宙に縛られない世界


無限


『それ』は待っている


一瞬の微睡みの中で