障害のある方が、
ある日、誰かの物を壊してしまった
誰かを叩いてしまった
そんなとき、
親として、胸が締めつけられる思いをする方は少なくないと思います。
そして、現場では今もなお、
「親が弁償するのが当然ですよね」
そんな言葉が、
何の疑問もなく投げかけられることがあります。
でも、それは
法律的にも、そして実務的にも、正しい理解ではありません。
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■ 民法が定める「監督義務者」とは何か
民法713条・714条では、
いわゆる「責任能力がない状態で損害を与えた場合」の責任について定められています。
ポイントは、ここです。
• 責任能力がない本人は、原則として損害賠償責任を負わない
• その代わりに、
「法定の監督義務者」または「代理監督者」が責任を負う可能性がある
では、
成人した知的障害者の「親」は、法定監督義務者に当たるのでしょうか?
結論から言えば、
👉 原則として、当たりません。
平成26年の法改正により、
精神保健福祉法から「保護者」規定は削除され、
成人した障害者の親は、
自動的に「法定監督義務者」ではなくなっています 。
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■ 親は「事実上の監督者」になり得るのか
では、
「親だから一切責任がない」のかというと、
話はそこまで単純ではありません。
裁判例では、
「事実上の監督者」という考え方が示されています。
ただし、ここがとても重要です。
親であること だけ で、
直ちに責任が生じるわけではありません。
判断されるのは、
• 同居しているか
• 日常的にどの程度関わっているか
• 財産管理をしているか
• 問題行動の予見可能性があったか
• それに対して、現実的に防げたのか
など、
具体的な生活実態を総合的に見て、
親の”過失”が判断されるということです。
これは、
JR東海認知症事件の最高裁判決でも明確に示されています
つまり、
「親だから当然にして責任を負う」
という短絡的な考え方は、
法の考え方とは一致していません。
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■ 福祉サービス事業者の活動中の事故は、誰の責任か
特に誤解が多いのが、
生活介護、B型、グループホームなど
福祉サービス事業者の活動中の事故です。
例えば、
事業所の活動中に、
利用者が壁に穴をあけてしまった
近隣の車を傷つけてしまった
この場合、
👉 原則として、その活動を管理している事業者が責任主体です。
なぜなら、
その場で実際に監督しているのは、
• 親ではなく
• 事業者(=代理監督者)
だからです。
それにもかかわらず、
当然のように、
「親に当然弁償してもらう」
「親の保険で処理しますよね」
という対応がなされることがあります。
これは、
法的にも、倫理的にも、明らかに不適切です。
驚くことに、
障害福祉サービス事業所では、
未だに、このような「誤解」が蔓延している状況にあります。
私は、
ある都立特別支援学校の元校長も、
この認識であったことに驚かされたことがあります。
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■ 親にお願いするなら「お願い」の姿勢で
もちろん、
現実の運用として、
• 親が加入している保険を使わせてもらう
• 親に金銭的な協力をお願いする
という場面が、全て否定されるわけではありません。
ただし、その場合は、
「親(または本人)に過失がある」という前提が必要であり、
あくまで「お願いする立場」であるべきです。
「当然弁償すべき」
「親の責任」
という言葉は、
法的にも誤りであるだけでなく、
日々必死に支えている親の心を深く傷つけます
障害者を支える保険会社さんも、
現実の運用を支えるため、頑張ってくださっています。
是非、保険の加入をすべきだと思います。
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■ 最後に ― 知っているだけで、守れる人がいる
私がこのブログを書いたのは、
• 誰かを責めるためではありません
• トラブルを増やすためでもありません
ただ、
👉 「正しく知っていれば、守れる人がいる」
そのことを、
多くの方に知ってほしいのです。
障害のある本人も、
親も、
そして現場で支援する事業者も。
互いを責め合うのではなく、
法と現実を正しく理解した上で、
協力できる関係でありたい。
そう強く願っています。

