しばらくの間は頭の中にモヤがかかっているような状態が続いたようで、本人も「おかしい、おかしい」と頭をトントン叩いたりしていましたが、その感覚も次第に薄れて行った様子で、一週間もするとまた元のように家事をこなすようになって来ました。
そこでまず始まったのが「ガスコンロにかけた鍋のことを忘れる(というか料理していたこと自体を忘れる)」ことで、毎日のように焦げた鍋がシンクに放置されているのを見るようになりました。
そしてそのことを指摘すると「私は知らない」「あんたがやったんでしょう」と答えるようにも。
ここまではあっという間の出来事でしたので、私自身も何か変なことが始まったくらいの感覚しか持っていなかったのですが、毎日のように割れたお皿やコップなど食器類の残骸を見るようにもなり、一抹の不安も覚えるようになって来ました。
それからあまり日数を置かないある日、仕事を終えて家に帰り玄関を開けると家の中が真っ白な煙で覆われている状態に。
慌てて台所に行くと鍋から噴きこぼれた具材がコンロの上に広がり、その具材に火が回ったからなのかコンロ全体が燃えている状態で、さすがにこのときばかりは心臓が縮み上がるような感覚に襲われました。
母親はというと居間のコタツで座椅子に座ったまま寝ていた感じで、何が起きているのかさえ分かっていない様子でした。
この日をもってガスコンロを外したことは言うまでもありませんが、電気コンロに変えたところで今度は手をつくなどしてやけどをする可能性もあると思い、しばらくはコンロ無しで食事はすべてスーパーやコンビニのお弁当に頼るという選択をしたことは今もよく覚えています。
なぜならまだ介護サービスの利用がそれほど一般化していなかった頃の話ですので、自力で切り抜けるしか方法が無かったというのが現実だったのです。
(つづく)