わたしたちはいつも、おそるおそる英語を話している。
自分が話している英語は、いつもどこか間違ってるんじゃないかと思っている。
文法は一通り知っているはずで、基礎的な語彙力も身に付いてるはずなのに、わたしたちは話せない。
それらの知識を正しく使う場面を知らない。
グラマーの授業は、ハウスで一緒に寝泊まりしているボーディングティーチャー、ティーチャーオブティーチャーのアドニスが担当してくれていて、
彼の授業はマンツーマンではなく、先生1:生徒2で受けるセミプライベートクラス(たぶん彼の授業料が高いから)。
彼のグラマーの解説の仕方は、今までわたしが日本で教わってきたものとはまったく違う。
どういうときにどの時制を使うか、というシチュエーションのカテゴライズの仕方も、日本の教科書や参考書とはちょっと違う。
たとえば、Present Perfect Simple(現在完了形)なら、
彼のカテゴライズの仕方は次の5つ。
Experience
Expectation
Recent event
Effect until now
Counting
これに、何種類かのSpecial verbsについての解説が加わる。
細かい解説はここでは割愛するけれど、
発話者がどういう気持ちのときに、完了形で表現することがしっくりくるのかということを、いろんなexsampleを示しながら、わたしたちの心に残るように、とても印象的に解説してくれるので、すごくわかりやすい。
英語での解説についていくのは今のわたしにはいっぱいいっぱいだけど、それでも、この授業はすごく集中できて、一番頭がフル回転する感じがして、とにかく楽しい。
さて、一通り解説が終わって、わたしたちは頭では完了形の意味を理解できる。
でも、実際に会話の中で使えるか、といったら、完了形を使った例文を何度も口にして、自然と口からついてでてくるようになるような練習をしなくてはならない。
アドニスは、テキストの中にある、現在完了形が多用されている一つのパラグラフを、一回だけわたしたちに読んで聴かせる。
そして、暗記しようとするな、感じろ、と言う。
内容が理解できて、そのストーリーについての絵が頭に浮かんだら、それを言い表すのにどんな語彙や時制がふさわしいか、自分の心の中にわき上がってくるのを感じろ、と言う。
そして、読み終わったあとで、固有名詞や for 2 days とか since 2 weeks ago とかの枝葉末節な部分は好きなように変えてもいいから、今聴いたストーリーをワンセンテンスずつ交互に言ってみろ、と言う。
もちろん1回聴いただけですべての文章を覚えるのは不可能だから、わたしたちは自分の印象に残っている、手がかりになるキーワードだけをたよりに、なんとかその内容を表現しようとする。
最初は自分なりの言い方、知っている単語や表現方法を使って言うと、アドニスはそれを認めてくれたうえで、さらにテキストに出てきたキーになる語彙や正しい動詞を、わたしたちが自分で導きだせるように、ヒントを出してくれる。
それはまるで、わたしたちがすでにそのストーリーを自分で語ることができるだけの知識を持っていることを彼は知っていて、その眠っている知識を引き出してくれるような感覚で、
わたしたちは二人で力を合わせて、そのストーリーを完成させようと夢中になる。
わたしたちが一通りストーリーを語り終えると、彼は
smoother ! あるいは faster !
と言って、それを何度もリピートさせる。
このときもまだわたしたちには自信がなくて、だからつっかえつっかえになって、それでも、なるべく正しい発音で、スムーズに発話することに集中する。
そうして何度か繰り返すうちに、わたしたちはそのストーリーを自然にスムーズに語れるようになっている。
授業の終わり。
「君たちは、今、テキストに書いてある文章を、暗記することなしに、一字一句すべて正しく言うことができた」
彼は言った。
それはちょっと、魔法みたいだった。