いよいよ深さ110~130センチの大人用プールに踏み込む。

先ほどの子供用プールには我々2人しかいなかったが、今度は推定60歳以上の男女が数名、思い思いに泳いだり歩いたりしている。平日の午後、年齢的にかなり浮いているのは仕方なしか。

人生の先輩方に僕のへぼい泳ぎを見られるのはなんだか恥ずかしいが、そんなことも言っていられない。先ほど習ったクロールもどきを大人用プールで実践してみる。すると先ほどより体を大きく使えてやりやすい。深い分視界も広がり快適だ。

5,6mほどで足をついてしまいながら、なんとか試行錯誤を繰り返す。

そのうちに苦しいながらも息継ぎができるようになってきて、10,15mと進めるようになってきた。息継ぎというよりも、思い切り顔を水面から上げてあえぐ感じだが、なんとか換気が可能となった。少なくとも溺れるのではないかという不安は、いつの間にか消えていた。


25mのプールを何往復したか分からない。何度途中で足を着いたか分からない。

しかし、或る時、不様な息継ぎをしながらも、25mを泳ぎきることができた。やった。やりました。

時間は大人用プールに入ってから40分ほどが経過していた。


その後数往復、25mを泳ぎきることに成功。

僕は泳げるようになったのか…いや、しかしあんまりそのような実感はない。

25mを泳ぎきり壁にタッチした瞬間、すでにスタミナを使い果たしおり、次の泳ぎ初めまで数分間大きく息をしながら回復を待つような状態なのだ。これは「泳げるようになった」というより、端まで「たどり着けるようなった」だけではないのだろうか。

とにかく、とりあえず25mたどり着けるようになった充実感と、さらなる練習の必要性を感じつつ、本日は撤収とした。ありがとう後輩。


ロッカーでの着替え。やっぱり素っ裸になる瞬間に違和感を覚える。

あと鼻がめちゃくちゃ痛い!

 「ここは歩行専用レーン、ここはフリーレーン、ここは25mを泳ぐ専用で途中で立ってはいけないレーンです」

なるほど、レーンによって縛りがあるわけだ。まあしばらくは子供用プールにお世話になるので、レーンとか関係ないわけだが。ありがとう監視員のお姉さん。


再びざぶりと子供用プールに戻る我々。「ではもぐってみましょう、息を吸って体の力を抜けば、背中から浮いてきますから」わかりました。意を決して顔を水に浸す。


水中、けっこう怖い。

水中メガネをしているので視界は良好だがなんとなくぼんやりとした景色と、音のない世界。こんな身近に僕の知らない世界があったんだ。

果敢に水に潜り、新世界への恐怖を克服しようとする僕をしり目に、後輩はビート板なぞを持ち出して先のステップに進もうとする。


まずバタ足は余裕でできた。たぶんできてる。

次はクロールの動き(息継ぎなし)、見よう見まねでやって見る。手の動きが入るとバタ足のみのときより格段にスピードが出る。なるほど、よくわからないがたぶんできてる、はず。水をかく腕に力を入れると推進力が増すが、一気に息が上がってしまうな。


そして息継ぎ。

これが難しい。まずはその場で顔を水につけて、さっと横を向いて空中で換気。顔を水中から出した時に息を吸うのはなんとなく分かるが、いつ息を吐けばいいのかわからない。空気を吸いっぱなしで苦しい。後輩は「なんとなく吐いて、すぐに吸うんですよ」などとわけのわからないことを言う。うわー、やばい…挫折しそう。ずっと息を止める作業ばかりしてきて結構疲れてきた。やめちゃおうかな…厭な考えが頭をよぎる。しかしここは落ち着こう。問題は「息を吐く」タイミングである。何度かそれを意識して試行錯誤すると、顔をあげた瞬間に「ぷっ」と吐いてすぐに「はっ」と吸えば上手くいくではないか。なんとなく慌ただしい動きだが、まあいいだろう。この要領でいってみようと思う。

「じゃあそれをさっきのクロールの動きに取り入れて泳いでください」後輩はずいぶん簡単に言う。

とにかくやってみる、が当然上手くはいかない。息継ぎをしようとすると体全体の動きがフリーズしてパニックになり、手足を恰好悪くばたつかせてしまう。子供用プールで溺れそうになってしまう自分が情けない。しかし恥は捨てなければならない。僕はもっと恥をかいて生きていくべきなのだ。ひとしきり溺れかける作業を繰り返したところで、この子供用プールの、すぐに足がついてしまう環境が体の動きを制限しているのではないかと思いだした。


よし、大人用プールに行こう。

入水から約1時間が経っていた。

後輩の予定が空いたので、本日いよいよ水中へ出陣することにした。

平日の真昼間に働き盛りの男二人が市民プールへ。


受付で初めの利用なので優しくしてくださいと申し出ると、ピンクのリストバンドを渡される。これが初心者の証となり、施設内で分からないことなどを教えてもらえるらしい。この優しい受付の女性、まさか僕が1mも泳ぐことができない愚鈍なカナヅチだとは思っていまい。

ロッカーで着替える。風呂場でもないところでパンツまで脱ぎ、一瞬素っ裸になることに違和感を覚える。皆さん慣れるものなのだろうか。


プールは25m×6レーンの大人用(水深110~130)と、小さな子供用(水深70)が並んでいる。水泳とは無縁だった自分がプールサイドに佇んでいることがなんとなく信じられない。準備運動なぞしてみる。

後輩が「まずは水に顔をつけるところからはじめましょう」と言う。いきなりハイレベルな要求だが従うことにする。ざぶりと子供用プールに入水。おお、これがプール…

なかなか顔をつける勇気が出ずになんとなく水と戯れていると、「始めてのご利用ですか?レーンの案内をしますね」と若い女性の監視員さんが声をかけてきた。競泳用とはいえ水着のおねえさんに話しかけられるという非日常感にくらくらしてしまう。我々は「はーい、お願いします」と良い子になり監視員さんについて行った。なかなか幸先のいいスタートではないか。

体の痛みも峠を越してきた。

今日は、先月までの仕事を手伝ってあげた後輩に、水泳のコーチを依頼してみた。

返事はOKだった。暇なやつめ。

しかし彼も泳ぐのはあんまり得意ではないという。25mは泳げると思うけど…などと弱気だ。しかし僕から見れば25m泳げればたいしたものである。しかも今年の夏にはグアムでマリンリゾートを楽しんできたという話も聞いた覚えがある。僕はプールでさえ尻込みしているのに、海なぞという未知の領域で遊んできた彼を尊敬せざるを得ない。


近所の市民プールのサイトをのぞいてみる。

利用には帽子が必須らしい。

アマゾンで水中メガネと水泳帽を注文した。二つで2000円弱。

パンツは3年前に屋外温泉に入るため購入した海パンがあるのでそれでいいだろう。

予想を裏切り、腕の筋肉痛はさほどではない。しかし下半身の筋肉痛はちょっと増したような気がする。

なにもしないのはまずいと思い、10分だけランニングしてみた。痛いのを我慢しながら、無表情を作ることに集中する自分が情けない。