突然の別れの言葉から、数日が過ぎた


取材の件についてはきっちり返信してくるけど、・・・ただ、それだけ


怜一さんの態度は・・・明らかに、仕事だけの付き合いになっている

少しも・・・揺らがない




怜一「・・・俺は、選んだ。お前よりも、仕事を選んだ

・・・ようするに、もうこうやって一緒にいてやることが俺には、できない」




・・・取材にはちゃんと応じてくれる・・・けど・・・


前のように、私と接してくれない・・・淡々と仕事相手として、接してくる



新藤「おい!かなで、今日は恵比寿で取材だろ?もう出なくていいのか?」


かなで「・・・え?あっ!もうこんな時間!すぐに行きます!」


新藤「・・・滝の取材、ずいぶん前倒しで進んでるみたいだけど、何かあったのかぁ?」


かなで「それは・・・」


ズキン、と胸が痛む。

海外転勤の辞令はまだ秘密なので、私からは・・・言えない


新藤「まぁ、仕事が早く上がる分には、俺は文句ないけどな。

じゃ、滝とのデート楽しんでこいよ」


新藤さんが笑顔で送ってくれる・・・

私達が・・・こんなことになってるってまだ知らないから仕方ないけど・・・

ウキウキしていた頃が、すごく、遠く感じる。ほんの少し前のことなのに・・・

今日の・・・このインタビューで、実際に顔を合わせての取材は終わり

今日で、会うのも最後・・・

あとは記事の確認とかをメールでやりとりするだけになる・・・


私は、頭を振って、暗い気持ちを追い払うと、仕事モードに気持ちを切り替え取材に臨んだ



怜一「『将来について』だが・・・

俺にとって、これから数年間は・・・正念場になると思っている

今度、新規プロジェクトのため海外に転勤することになった。

大変だが、やりがいを感じている」


怜一さんの話していること、ためらいとか、迷いとか・・・

そういうものを一切感じない

前とは全く違う、力強い言葉・・・

その言葉たちが、怜一さんの意志をはっきりと伝えてくる


怜一「詳しくは言えないが、まったく新しい分野の仕事なので、

かなり忙しくなるだろう」


かなで「任期はどのくらいですか?」


個人的に質問したいことがたくさんあったが、

インタビュアーとして仕事に専念することにした


怜一「そうだな・・・短くても3年は帰ってこれないだろうな。

長ければ、それこそ海外で骨を埋めるかもしれない」


かなで「・・・さ、3年・・・?そんなに長い間・・・」


怜一「3年で済めば、上出来だろ。

・・・普通に考えれば、もっとかかるだろう」


かなで「で、では、その間は日本と海外を行き来することになるのでしょうか?」


怜一「プロジェクトに集中したいので、日本との行き来は必要最小限にするつもりだ」


そっか・・・別れなかったとしても、

・・・長い間、遠距離恋愛になるってことよね・・・


かなで「では、質問を変えて・・・

現地での生活で楽しみなことはありますか?」


怜一「仕事で成果を上げるのが、一番の楽しみだ。

他のことには関心が持てない」


かなで「え、えっと、長い滞在になるなら、

たまには息抜きとかも必要ではないですか?」


怜一「・・・しつこいな。俺に何て答えてほしいんだよ。俺は仕事をしにいくんだ

息抜きだの、楽しみだの、お前が、そう言ってほしいだけだろ?」


かなで「そ、それは・・・私は、読者に、怜一さんの海外生活を分かりやすく伝えたかったのと・・・やっぱり、怜一さんのことが心配です。

そんなに仕事ばかりでは身体が・・・」


怜一「・・・これは、雑誌の取材か?それとも、お前のおしゃべりに俺はつきあわされているのか?・・・公私混同が過ぎる。仕事じゃないなら、帰らせてもらう。・・・俺も暇じゃないんだ」


ガツンと言われて、私はショックで身体が震えた


確かに・・・仕事だけど、私は、いきなりそこまで割り切れないわ!


怜一「・・・俺は自分の野望を叶えに行く

・・・その間、恋愛をするつもりは、さらさらない。・・・もう、決めたんだ」


怜一さんは、その時だけ私を強く見つめた。


今の言葉・・・インタビューにかこつけて、私に向かって宣言しているんだ

この海外のプロジェクトに文字通り、人生をかけている

私のことなんて、眼中にすらない・・・


強い言葉が、私の心に響いてくる

優しさはなく、ただひたすらに、厳しく・・・


怜一「・・・それで、『将来について』の続きだが・・・」




淡々と、いつもの取材のように、怜一さんは話を続けていた

まるで、何事もなかったように


怜一さんは本当に私のこと、好きだったのかな・・・?


私は怜一さんの冷静な声を聞きながら、悲しみがふつふつと込み上げて来た


それでも、私はメモを取る手を止めない

1度止めたら、もう二度と動かなくなりそうで


それとも、仕事の合間のほんの片手間でしか愛されてなかったのかな・・・?


いろいろな表情を見せてくれた怜一さんがウソのよう

今は・・・一番最初に出会った時よりも厳しい表情に見える


私は・・・忘れられてしまうのかな

あのイヤリングの女性のように

怜一さんにとって、私ってなんだったのかな・・・


もう、彼のことが何もわからなくなってしまっていた


私は、記事なんて書けるのかな?


そうして、最後の取材が終わった



最後の取材が終わっても、怜一さんはいつものバーに私を誘った

・・・いつものように



怜一『・・・マスターに、転勤の件と・・・俺達が別れたことを報告しに行くんだ。

一緒に来るか?』



少しでもそばにいたくてついてきたけど・・・

怜一さんはやっぱり仕事相手として扱ってくる

まるで傷口に塩を塗られてるみたいに、一緒にいても辛いだけ・・・


わざわざ2人の思い出の場所に来なければ良かったと、少し、後悔していた・・・