怜一「・・・あとは、お前の仕事の段取りだが・・・」
かなで「・・・記事の構成はほとんでできているので、もう大丈夫です
あとは、細かい確認などは・・・」
怜一「メールで送ってくれれば、そっちの仕事に支障がないように早めにチェックする」
かなで「・・・・・・分かりました。そのように手配します」
がらんとした部屋を見ている内に、鼻の奥がまた、ツーンとしてきた
かなで「怜一さんは、本当に行ってしまうんですね。海外に・・・遠いところへ」
怜一「まぁな。辞令が下りた以上、なるべく早めに、日本を発つように言われている
・・・おそらく来月には、向こうに行くことになるだろう」
かなで「ら、来月!?そんなに早く?」
そんなに早く、旅立ってしまうのかとあまりの急な展開に、目の前がすっと暗くなった
怜一「部屋に来てもらったのは、海外に持っていけない荷物をお前にやろうと思ってな」
かなで「私に・・・?・・・どうしてですか?」
怜一「お前、以前、俺の家具や持ち物を『センスがいい』って褒めてただろ?
好きなものをくれてやるから、持っていけばいい」
かなで「それって、私を廃品回収か何かの代わりにしようってことですか・・・?」
怜一「・・・好きとか、恋人同士とか未練がましいこと言うから、形見分けの真似でもして・・・
お前の未練を断ち切ってやろうと俺なりに考えてのことだ」
怜一さん、私をこんなに傷つけてまで、本当に別れたいの?
それとも、まだ迷っていて、私が別れを切り出すのを待っているの?
選択肢
・別れたくないという
・仕方ないと諦める
・黙って見つめている←これを選択
私は、怜一さんをじっと見つめた
怜一さんの瞳を見れば、別れたいのか、そうでないのか、
彼の本当の気持ちが分かるかも・・・
怜一「・・・そんな目で俺を見ても、今さらよりを戻すことはできない。諦めるんだ」
かなで「でも、やっぱり本心では、別れを納得できません!
なぜ私達、別れるんですか!?」
怜一「これが俺とお前が傷つかない、最善の方法だったらだ。何度も言わせるな!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
怜一「・・・・・・・・・・・・・・・もう、終わりにしよう」
怜一さんの身体がふらりと揺れて、何もない壁にもたれかかった
怜一「本当は、俺が、お前への未練を断ち切るために、連れてきたんだ
・・・観念しなきゃならないのは、お前じゃなくて、俺の方なんだ
本当に馬鹿な男だな…俺は。
別れると言っているのに、ずっと一緒に居たくなる」
かなで「怜一さん・・・」
怜一「・・・どんなに別れを口にして、かなでを傷つけてまで、別れの準備を整えても・・・
それでも、お前を吹っ切れない…こうしてお前と、一緒に居たいと願ってしまう」
不意に怜一さんが私を抱き寄せた
息が詰まるくらい、強く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
永遠と思えるほどの間、私達は抱き合っていた
怜一「ごめん・・・」
ゆっくりと、怜一さんがつぶやく
・・・言葉が、私の頭の中に響く
音が駆け巡る・・・
怜一さんが・・・謝っている
悲しそうな、壊れそうな声で謝っている
この時、分かってしまった
本当に、これが最後だと言うことを・・・
今、感じる・・・この温かさが、離れてしまった時・・・私たちの終わり
怜一「ごめんな・・・・・・・・・・」
この後、怜一さんが、私の耳元で囁いた言葉・・・
この言葉が、私の心をさらに、完璧なまでに、完全に打ち砕く
怜一「・・・・・・・・・・・すまない」
私は放心のあまり、怜一さんを抱き留めていた手を、だらんとおろしてしまった
逆に怜一さんは、脱力した私の身体を更にしっかりと抱き締めた
別れを切り出されてからずっと、こうやって、抱き締めてもらうことを夢見ていた・・・
これまでは悲しくて何度も涙があふれた
しかし、今は完全に心を打ち砕かれ、空虚な涙が止まらなかった
この抱擁は、【愛情】じゃない
・・・怜一さんと、私はもう、壊れてしまったんだ
この場所にいては・・・ダメ
このままいれば、怜一さんをきっと許してしまう
怜一さんの力が、ふっと緩んだ
私はその瞬間、彼を突き飛ばした
かなで「・・・・・さよなら」
私は、怜一さんを一度も見ることなく、カバンを持って、部屋を出た
止まるな、走れ・・・!
もう、振り返ってはいけない
神様・・・
どうか、忘れさせてください
今までの楽しい思い出を、消してもらってもいい・・・
どうか、どうか
この苦しみから解放してください
私と彼を・・・この苦しみから、どうか、解放してください
神様、私は少しだけ・・・過信していたのです
怜一さんは、本当は私を愛していて、別れたくないと思ってると
そして、ほんの少しだけ、期待していたんです
『別れるなんて嘘だ』とか『一緒にやり直そう』とか・・・怜一さんが言ってくれると
でも、それは大きな勘違いでした
愛があれば、関係ないって思っていました
でも、それは違ったのです
あの時、私を抱き締めながら、怜一さんが言った言葉
それは・・・
『ごめんな・・・・・・・・・』
・・・かすれたような、彼の悲しそうな声
『俺は、お前を選べなかった。・・・すまない』
彼は、本当に私を選べなかった
心の底から悩んで、そう決めた
決めてしまった・・・
私は、確信してしまったのです
私達は終わってしまったのだと・・・
神様、どうして、私達は出会ってしまったのでしょうか?
なぜ、恋に落ちてしまったのでしょうか?
どうして、お互いを苦しめる存在にしか、なれなかったのでしょうか?
ふと、目の前には・・・恵比寿の美しい夜景が広がる
涙でぼやけながら見る恵比寿の夜景は、とても綺麗だなと、思った