以上
そうして彼と、恋人(仮)の関係になった。
彼は今まで恋仲になったどの男の人とも全然ちがった。
私は自分に自信がなく、いつも相手の気持ちを窺って行動していた。
そうしてきた日々が当たり前すぎて、彼と出会うまで自分がそうしていることに気が付いてもいなかった。
相手の好みに合わせたり、望むようなキャラを演じないと捨てられる、飽きられる、愛されないと思っていた。
それが苦だとも思わなかった。
自分で選択しなくて済む、考えなくて済むからだったのかもしれない。
素のままで出ていって「なんか違う」と捨てられたら立ち直れない気がした。
そのため、俗にいう「面倒じゃない、いい女」に寄せていた。
「女の人がいる飲み会なんかも嫌じゃない」
「気になるそぶりすら見せたら負け」
等束縛めいたことは言う気にもならなかったし、
むしろ自分は気にならない性格だとさえ思っていたし、
どうにかこうにか「追われる女」になろうとしていたし、
1gでも自分の方が重くなったり、俺のこと好きだなと安心された瞬間飽きられると思っていた。
とにかく何かに負けないよう必死だった。
初恋から5年引きずった恋を主として、
付き合う相手も、私のことを好きなのか何を考えているのかわからない人だったし
余計に負けられなかった。
相手から告白されて付き合うことしかなかったにもかかわらず、いつも不安だった。
馬鹿にされている、尊重されていない気さえした。
でも彼は根本から違っていた。
私と話して、顔を合わせて、待ち合わせをして、
ここまで露骨に嬉しい顔をするのは人生でこの人が初めてだった。
「男のプライドが邪魔してそんなことできない」
「男なのに可愛いなんて言われたくない」
なんていう人と付き合ってきたが、そんなものは微塵も持ち合わせていないようだった。
可愛いと言えば「ほんと!?初めて言われた!うれしい♪」と返ってくるし
今でもかわいいね~と言うたびに、えへへと嬉しそうだ。
好き!と平気で言う人にも初めて出会った。
付き合っていて「好き」と言い合ったことなんてなかった。
記念日や誕生日くらいには手紙に書いたことくらいあったと思うけれど、
口にしたことなんてたぶん数回しかない。
そんな自分にも初めて気付いて驚いたし、
新人種の彼にもとても驚いた。
彼はことあるごとに「すきっ」と言う。
なにもなくても唐突に「なあなあ、すき」「しゅき」などと言ってくる。
どうしたのと言うと「好きが溢れた」「たかぶった」なんて言い出す始末。
驚くべきことに、「俺のこと好き?」とも平気で言う。
重い女代表みたいなそんな言葉!メンタルめちゃめちゃ強いな!と思ったし
好きとも言いなれない私にはハードルの高い質問だ。
「だから付き合ってるんでしょ」「そりゃねえ」「当然」
異文化過ぎて最初はえー?とかんー?とかしか返せなかった。
そうしたらなんと「俺はすき♪」と返ってきて、10倍びっくりした。そんなことある、、?と思った。
そんな言い方されたら太刀打ちできない。
まるっと包み込まれた気分だった。今までの駆け引きとはなんだったのか。
そうしてやっと「わたしも」と言えるようになった。
今では私も「そういうとこ好き」なんかを経て
なにもなくとも「すきっ」と言えるようになった。
恥ずかしい話だけれど、それでよかったと思っている。
そんな彼が「好きって言いすぎたら好きが軽くなる!?大事な時だけの方がいい!?」
と言い始めたことがあった。
なんでも口からでてしまう彼は駆け引きどころではなくて可愛い。
言われるほどうれしいし安心、と言うと「じゃあもっと言う♪」とご満悦だったし
ダメって言ったらやめるのかときくと「俺が言いたいから言う」とのことだった。なんだよ可愛い。
電話をかけることも苦手だったけれど、
かけるたびに「かけてくれてうれしい♪」「ありがとう」と心底嬉しそうに言うもんだから
気軽にかけられるようになった。
どんなにちょっとした話にも丁寧に反応してくれるので
家族とでさえあまり自分から話さない性格だと思っていた自分が、たわいのない話をよくするようになった。
「あれがたべたい」と言えば「今度行こうね」だし
「桜が咲いてたよ」と写真を送れば「きれい、写真上手、はやく一緒にお花見いきたいね!」
と返ってくる。
意外性はないけれどラインのやり取りでこれは満点なのではないか。
彼の丁寧な言葉選びは最初から好印象だった。
話すとそうでもないのだけれど、マメで丁寧な印象のラインの返し方をしてくる。
返ってくる頻度も、大体20~40分に一通と決まっていて
何時間も返ってこなかったことなんて一度もない。
私はすぐ返したり何時間も返さなかったりもするのだけれど
どんな時も彼のペースは一定だ。
昔、相手のペースに合わせるだとか、すぐ返しちゃだめだとか
相手よりマメになると負けだとか思っていた自分が本当にばからしくなる。
といいながらも、今でもなんとなく相手のペースに合わせてしまっている自分がいるのだけれど。
でも今は、全然違う。いつでも返せば当然のように返ってくる、と確信がある安心感は、本当に大きい。