1.事業部の業績評価

事業部制を採用している企業では、独立採算により管理を行われる。各事業部が独立の企業と同じように扱われるため、事業部長の権限と責任を明確に規定し管理上の効果を上げる。

事業部の業績評価の指標は投下資本の効率である。

投下資本の効率測定には、投資資本利益率(ROI)、残余利益(RI)が用いられる。

2.事業部別の損益計算書

事業部の業績測定用の損益計算書では、固定費を細分化することで各段階における利益を算定する。

固定費は個別固定費と共通固定費に分類し個別固定費は、管理可能個別固定費と管理不能個別固定費に分類する。

事業部における管理可能個別固定費とは、事業部に跡付け可能な固定費のうち事業部長にとって短期的に管理可能な固定費である。

事業部における管理不能個別固定費とは、事業部に跡付け可能な固定費のうち事業部長にとって管理不能な短期的な固定費である。

(1)管理可能利益

=売上高ー変動費ー管理可能個別固定費

(2)事業部利益

=管理可能利益ー管理不能個別固定費

(3)事業部(純)利益

=事業部利益ー共通固定費配賦額

3.事業部長の業績測定

事業部長の業績測定は、利益額だけでなく、投下した資本の収益性を測定する必要がある。

(1)管理可能利益

事業部長の直接的な責任を示す利益。

(2)管理可能投下資本利益率

事業のために投下資本をどれだけ有効に使ったかを示す指標。

管理可能投下資本利益率
=管理可能利益÷管理可能投資額×100

例えば、事業部損益計算書の管理可能利益25万円を獲得するための管理可能投資が250万円だった場合、管理可能投下資本利益率は10%になる。

(3)管理可能残余利益

事業部において最低獲得しなければならない利益額をどれだけ上回っているを示した金額。

管理可能残余利益
=管理可能利益ー(管理可能投資額×資本コスト率)×100

4.事業部自体の業績測定

事業部自体の業績評価は、事業部の拡大や縮小の決定を行うため、各事業部に投下した資本の収益性を測定する必要がある。
投下資本効率の測定には、投下資本利益率が用いられる。

投下資本利益率
=事業部(純)利益÷総投資額

5.内部振替価格

事業部間で内部取引する際に製品や部品の引渡価格を内部振替価格を設定して、意思決定や業績評価を適正に行う。

内部振替価格の設定方法には原価基準と市価(市場価格)基準がある。

原価基準には、変動費と固定費を合計した全部原価基準と変動費基準がある。

原価基準を採用する場合は、内部振替価格は実際原価ではなく作業能率の良否に影響を与えない標準原価を用いる。

6.経済的付加価値(EVA)

残余利益の一形態であり、資本コストを上回る利益を測定する指標である。


問題1
当社では、事業部制を採用しており、a事業部とb事業部を設けている。以下の(ア)~(オ)に当てはまる数字を答えなさい。

1.a事業部の事業部損益計算書の貢献利益は200万円である。
また、管理可能固定費と管理不能個別固定費はそれぞれ50万円、共通固定費配賦額30万円である。

2.当社では、投下資本利益率(ROI)を採用し、7%の達成を事業部の財務的目標としている。

問1.a事業部の管理可能利益は(ア)万円、事業部利益(イ)万円である。

問2.a事業部の管理可能投資が1500万円の場合、管理可能投下資本利益率(ウ)%になる。

問3.a事業部の期首資産が1875万円の場合、投下資本利益率(エ)%になる。

問4.a事業部の投資額が1000万円、管理可能利益が150万円の場合、残余利益(オ)である。

解答
(ア)150(イ)100(ウ)10(エ)8
(オ)80

解説
1.事業部の業績測定用の損益計算書では、固定費を細分化することで各段階における利益を算定する。

2.管理可能利益は、貢献利益から管理可能個別固定費を差し引いて算定される。

3.事業部利益は、管理可能利益から管理不能個別固定費を差し引いて算定される。
さらに、共通固定費配賦額を差し引くと事業部純利益が算定される。

4.投資資本利益率(ROI)とは、事業部長又は事業部自体の業績尺度として用いられる。

(管理可能利益÷管理可能投資額)×100=管理可能投下資本利益率で事業部長の業績測定する。

(事業部純利益÷総投資額)×100=投下資本利益率で事業部自の業績測定する。

5.残余利益(RI)とは、その事業部において最低限獲得しなければならない利益額をどれだけ上回っているかを表したものである。

管理可能残余利益=管理可能利益ー(管理可能投資額×資本コスト率)×100

問題2
当社は、投下資本税引後営業利益率(ROIC)を採用し、10%の達成を事業部の財務的目標としている。

1.10月末の流動資産、固定資産、買掛金の予定有高は次の通りである。(単位万円)

現金8100、売掛金3000、貸倒引当金△150、製品1200、材料450、仕掛品900、建物2000、機械装置15000、減価償却累計額△500、買掛金5000

2.10月末予算損益計算書の税引後営業利益2250万円である。

3.事業部投下資本は、運転資本に固定資産を加算して計算すること。また、運転資本は流動資産から買掛金を控除して計算すること。

問1.10月末の予定運転資本(ア)万円である。

問2.投下資本税引後営業利益率(ROIC)は(イ)%である。

解答
(ア)8500(イ)9%

解説
1.投下資本税引後営業利益率(ROIC)とは、株主による拠出金に対してどのくらいのリターンを実現したかを示す指標。
調達した資本(=投下資本)に対してどれだけ利益を出しているかを表しているが、事業投下資本には、運転資本に固定資産を加算するか純資産(株主資本)に有利子負債を加算する計算がある。
正味運転資本の概念は、いろいろある。
(1)流動資産から流動負債を差し引いた金額。
(2)売上債権に棚卸資産を加算して仕入債務を差し引いた金額。
(3)営業サイクル内の現金預金に売上債権と棚卸資産を加算して仕入債務を差し引いた金額。

2.投下資本は、運転資本に固定資産を加算して計算する。

(1)運転資本を求める。
13500(流動資産)-5000(流動負債・買掛金)=8500
(2)投下資本の計算
16500(固定資産)+8500(運転資本)=25000

3.ROICは、2250万円(税引後営業利益)÷25000万円(投下資本)×100%=9%

問題3
1.現在、A事業部は事業部利益額118万円、事業部投下資本額400万円である。

2.新規投資プロジェクトの事業部投下資本額200万円、事業部利益は50万円と予想される。

次の文章の(ア)~(オ)に当てはまる数字を答えなさい。

新規投資プロジェクト(ROI)は(ア)%の投下投資利益率が見込まれ、全社的な自己資本コスト率の8%を上回るので全社的には新規投資プロジェクトを採用すべきである。
しかし、投下投資利益率(ROI)で業績評価する場合、投下投資利益率が(イ)%に下がってしまう理由で、この新規投資プロジェクトの採用を事業部長は見送ると考えられる。
一方、残余利益で業績評価する場合、残余利益は現在の(ウ)万円から(エ)万円に増加するので、この新規投資プロジェクトを事業部長は採用すると考えられる。

解答
(ア)25(イ)28(ウ)86(エ)120

解説
1.事業部の意思決定を投下資本利益率(ROI)を用い場合と残余利益(RI)を用いた場合がある。

2.投下資本利益率(ROI)を用い場合

(1)現在の事業部A
(118万円÷400円)×100%=29.5%
(2)新規投資プロジェクト
(50万円÷200万円)×100%=25%
(3)新規投資プロジェクト採用後
(168万円÷600万円)×100%=28%
(4)新規プロジェクトを採用した場合、採用しない場合を比較して事業部の投下資本利益率(ROI)が下がってしまう理由で、新規プロジェクトを採用しない。

3.残余利益(RI)を用いた場合

(1)現在の事業部A
118万円ー400万円×8%=86万円
(2)新規投資プロジェクト
50万円ー200万円×8%=34万円
(3)新規投資プロジェクト採用後
168万円ー600万円×8%=120万円
(4)新規投資プロジェクト採用後から34万円だけ会社全体の利益が増額するので。新規投資プロジェクトを採用すると考えらる。

4.投下資本利益率の下がってしまう理由で新規投資プロジェクトが採用されない可能性があるが、残余利益を用いれば、自己資本コストに対して事業部の利益が上回っていれば、新規プロジェクトを採用すべきと判断される。このことは、投下資本利益率が増えたことを意味している。

問題4
次の(ア)~(オ)に当てはまる数値を答えなさい。

1.甲社は、X事業部が生産した製品AをY事業部に供給して製品Bを製造販売している。

2.現在、製品Bの100個の追加注文に対して余剰生産能力があるが、追加生産するかどうかを検討している。

3.製品Aの製造に必要な標準変動費は180円/個、標準固定費は80円/個である。

4.固定費については、生産量にもとづいて製品に配賦している。
基準操業度は、製品Aは200個、製品Bは150個である。

5.製品Bへ加工するための標準変動費は150円/個、標準固定費は30円/個である。

6.製品Bを1個製造するためには製品Aを1個が用いられる。

7.製品Bの販売価格は500円/個である。

8.製品A及び製品Bの変動販売費はそれぞれ10円/個、5円/個である。

9.各事業部の損益計算書は直接原価計算によって作成している。

10.甲社は、事業部間の内部振替価格として、標準全部原価及びその他の基準を検討することにした。

問1
製品Aの標準全部原価を内部振替価格を用いた場合、Y事業部の単位当たりの貢献利益は(ア)円である。

問2
製品Aの標準変動原価に10%をマークアップした(イ)円/個の金額を内部振替価格とした場合、X事業部の単位当たりの貢献利益は(ウ)円である。

問3
製品Aの標準変動原価に10%をマークアップした金額を内部振替価格とした場合、Y事業部の単位当たりの貢献利益は(エ)円、営業利益として(オ)円を計上することとなる。

解答
(ア)85(イ)198(ウ)8(エ)147
(オ)10200

解説
1.全部標準原価を内部振替価格とした場合のY事業部の単位当たり貢献利益の算定

(1)内部振替価格
180円+80円=260円/個
(2)Y事業部の単位当たり貢献利益
{500円/個ー(260円/個+150円/個+5円/個)}=85円/個
2.変動標準原価に10%をマークアップした金額を内部振替価格とした場合のX事業部の単位当たり貢献利益の算定

(1)内部振替価格
180円×110%=198円/個
(2)X事業部の単位当たり貢献利益
{198円/個ー(180円/個+10円/個)=8円/個

3.変動標準原価に10%をマークアップした金額を内部振替価格とした場合のY事業部の単位当たり貢献利益と営業利益の算定

(1)内部振替価格
180円×110%=198円/個
(2)Y事業部の単位当たり貢献利益
{500円/個ー(198円/個+150円/個+5円/個)}=147円/個
(3)Y事業部の貢献利益
100個×147円/個=14700円
(4)Y事業部の固定費
30円/個×150個=4500円
(5)Y事業部の営業利益
(3)ー(4)=10200円

4.内部振替取引
X事業部が外部市場への販売ではなくY事業部への内部振替取引を選択するのは、外部市場の販売と同額以上の利益を得ることができるとき、内部振替取引を選択する。
事業部間で内部取引する際に製品や部品の引渡価格を内部振替価格といい、事業部が最適な行動を選択するために、内部振替価格を用いて、事業部の業績評価と意思決定を行う。

(1)業績評価の目的
事業部間取引の成果を事業部の事業利益に適切に反映させる。
内部振替価格をX事業部の製造原価(標準全部原価や標準変動原価)とすると、X事業部の利益がゼロとなり、X事業部の成果が適切に反映されない。
従って、両事業部の成果が事業部利益に適切に反映されるように、製造コストに一定の利益を加算(マークアップ)する金額か用いられる。

(2)意思決定の目的
会社全体と事業部の意思決定の結果を整合させる。
意思決定において固定費は、内部振替価格の計算を除いて埋没原価とする。
内部振替価格を標準変動原価とすると、会社全体の差額利益と事業部の差額利益が一致する。
よって、Y事業部は製品の受注の可否について会社全体と意思決定が一致する。
しかし、内部振替価格を原価に一定の利益を加算(マークアップ)する金額とすると、会社全体の差額利益とY事業部の差額利益が一致しないために事業部の製品の受注の可否について誤った意思決定を行う可能性がある。
事業部間の内部振替価格を全部標準原価から他の基準に変更しても、その他の取引条件が変化しなければ、当該取引に関して計上される会社全体としての利益には影響を及ばない。
しかし、内部振替価格により業績の評価や意思決定は影響を受けるため、事業部の生産販売をする動機づけられるよに内部振替価格の金額を設定すべきである。