1.原価予測の方法

原価がどう変化するかを予測することは、変動予算の設定や直接原価計算に有用な資料を提供する。

原価予測方法は、IE法と過去の会計データを利用する費目別精査法と費用線をy=ax+bの式で推定する方法がある。

2.費用線をy=ax+bの式で推定する方法

(1)高低点法(数学的分解法)

原価の実績のデータの中から、最も金額が大きい点と小さい点を直接で結び、その角度を変動費率(a)として、費用線(y=ax+b)を求める方法。

(2)スキャッター・チャート法

原価の実績のデータをスキャッター・チャート(散布図)に記入し、目分量で費用線(y=ax+b)を引く方法。

この方法は、スキャッター・チャート(散布図)に過去の原価の実績データを横軸に操業度、縦軸に原価を記入し、できるだけ多くの点を通過するように直線(平行線)を目分量で引き、その直線の傾きを変動費率とし、縦軸との交点を固定費額とする。

(3)回帰分析法(最小自乗法)

原価の実績のデータの中から、統計的な手法(理論的)によって費用線を求める方法。
2つの方程式を解くことで、各点からの距離の2乗の合計が最も小さくなるy=ax+bの式を求めることができる


問題1
以下の資料に基づいて、販売費及び一般管理費について高低点法の原価予測の方法に基づき、(1)変動費率及び年間固定費、(2)年間計画販売量150個の販売費及び一般管理費の年間予算を計算しなさい。

1.販売費及び一般管理費については公式法変動予算を設定する。

2.年間における販売費及び一般管理費の過去6年間における実際発生額(販売量)は、次のとおりである。

×1年度32000円(95個)
×2年度26350円(75個)
×3年度30000円(90個)
×4年度33000円(105個)
×5年度36150円(125個)
×6年度34500円(110個)

3.年間正常生産量(基準操業度)は100個であり、正常操業圏は85%~120%である。

解答
(1)変動費率225円/個、固定費9750円。
(2)43500円

解説
1.正常操業圏とは、ある一定期間における営業量(操業度)の変動と原価の発生を予測できる範囲をいう。

2.高低点法(数学的分解法)
原価の実績のデータの中から一番高い操業度と一番低い操業度における原価を直接で結び、その角度を単位当たりの変動費aとして、固定費額を求める方法。

3.正常操業度の範囲は120個(100個×120%)から85個(100個×85%)となる。

4.高低点法では、原価の実績のデータの中から一番高い販売量(110個)における費用34500円と一番低い販売量(90個)における費用30000円に基づき、y=ax+bの式からaの変動費率の値は(34500円-30000円)÷(110個-90個)=225円/個である。

bの固定費の値は、一番高い販売量(110個)における費用を使って、34500円-(110個×225円/個)=9750円になる。

4.販売費及び一般管理費年間予算
(150個×225円/個)+9750円=43500円

問題2
以下の資料に基づいて、年間計画販売量130個の販売費及び一般管理費の年間予算を計算しなさい。
原価予測の方法として最小自乗法による。

1.販売費及び一般管理費については、公式法変動予算を設定する。

2.年間における販売費及び一般管理費の過去4年間の実際発生額(販売量)は次のとおりである。

×1年度140万円(100個)
×2年度240万円(150個)
×3年度120万円(50個)
×4年度270万円(200個)

3.年間正常生産量(基準操業度)による正常操業圏は40個~210個である。


解答
1485万円

解説
1.最小自乗法(回帰分析法)
目分量で引いた実績データの真ん中を通る直線を引いたとして、各実績データと直線との乖離(偏差)を2乗の合計を計算して、最小となるような直線の式を求める方法。

最小自乗法の公式
①ΣY=aΣX+Nb
②ΣXY=aΣ^2+bΣX

Y=原価発生額、X=操業度、N=データ数、a=変動費、b=固定費

2つの方程式を解くことで、各点からの距離の2乗の合計が最も小さくなるy=ax+bの式を求めることができる。

①Yの合計=a×Xの合計+Nb

②(操業度×Y)の合計={a×(操業度^2の合計)}+(Xの合計×b)


(1)最小自乗法で変動費と固定費を計算するためには、方程式の必要な数値を求める。

X
×1年度100、×2年度150、×3年度50、×4年度200、合計500
Y
×1年度140、×2年度240、×3年度120、×4年度270、合計770
XY
×1年度14000、×2年度36000、×3年度6000、×4年度54000、合計110000
X^2(X×X)
×1年度10000、×2年度22500、×3年度2500、×4年度40000、合計75000

(2)上で計算した値を方程式に代入して、a(変動費率)とb(固定費)を計算する。

①770万=500a+4b
②110000万=75000a+500b

この方程式を解く
a=11万円/個、b=55万である。

よって、変動費率11万円/個、固定費55万円となる。

販売費及び一般管理費年間予算は、(130個×11万円/個)+55万円=1485万円である。