1.直接原価計算の意義

直接原価計算は、変動製造原価のみが製品原価となり、その他の原価は期間原価とされる。

製品原価とは、一定単位の製品に集計された原価をいい、期間原価とは、一定期間における発生額を当期の収益に直接対応させる原価をいう。

2.変動費と固定費

原価と操業度との関係を原価態様(コスト・ビヘイビア)という。
操業度とは、生産設備を一定とした場合におけるその利用度をいい、直接作業時間や機械稼働時間など製造活動に関連した数値が用いられる。

企業全体の評価や収益力を検討したりする場合には、売上高や販売量などの営業に関連した数値が用いられる。

(1)準変動費・準固定費

原価は、操業度に比例して発生する変動費と操業度とは関係なく一定額が発生する固定費に分類できる。
しかし、純粋な変動費と固定費は少なく、中間的な変化を行う準変動費と準固定費が多い。

準変動費とは、電力料のように操業度がゼロでも一定額が発生し、それ以降は変動費的に増加する原価。

準固定費とは、操業度の範囲内では一定の金額で、その操業度の範囲を超えると発生額が増加し、再び一定の金額を維持する原価。

例えば、工場設備の減価償却費は、工場設備の生産能力(キャパシティ)の範囲では、工場設備の減価償却費は一定金額で、工場設備の生産能力を超えると増強した工場設備の分だけ減価償却費が増加し、再び一定の金額を維持する。

(2)労務費(人件費)

原価計算では労務費を作業時間に比例して変化する変動費として、製品原価を計算している。

3.全部原価計算との比較

全部原価計算と直接原価計算の営業利益が異なる原因は、製造固定費が全部原価計算は製品原価に直接原価計算は期間原価になる。

なお、全部原価計算における操業度差異は、原則として売上原価とされるため、全部原価計算においても期間原価となり直接原価計算による営業利益が異なる原因とならない。

全部原価計算は、製品単位当たりに負担する固定費の金額が生産量と販売量の大小関係により変化するので、全部原価計算と直接原価計算の営業利益が異なる。

4.直接原価計算の利用

短期利益計画の策定ないし予算編成に用いられる。

5.直接原価計算の損益計算書

売上高から変動費を差し引いて貢献利益を計算し、さらに固定費を差し引いて営業利益を計算する。

6.固定費の調整額

制度上、全部原価計算による営業利益だけが認められている。
直接原価計算で計算した営業利益は、固定費調整額により全部原価計算による営業利益に修正する。

直接原価計算で計算した営業利益+(期末棚卸資産に含めるべき固定製造原価ー期首棚卸資産に含まれる固定製造原価)=全部原価計算による営業利益

7.目標価格の決定方法

(1)全部原価計算による場合

①製品の全部原価(総原価)を計算し、これに一定の利益(目標営業利益)を加えて価格決定する。

(製品単位当たり総原価+製品単位当たり目標営業利益)

②総原価に目標マークアップ率を加える方法。

{製品単位当たり総原価×(1+目標マークアップ率)}

マークアップ率とは、原価に対する利益の大きさの割合。

(2)直接原価計算における場合

価格の設定に際しては、変動費を中心として行われる。
ただし、長期的に生産販売を行う場合は固定費を回収できる価格を設定する。

{製品単位当たり変動費÷(1ー目標売上高貢献利益率)}

(3)製品の販売価格を決定する方法には、コスト・ベースにマークアップを加算して決定する方法とマーケット・ベースによって決定する方法がある。
この価格から目標利益を控除して目標原価は、マーケットベースを達成させる原価である。これを目標原価計算という。

マーケットベースとは、当該製品に対して顧客が支払うであろう価格又競合価格などを参考にして決定する方法がある。


問題1

当社は、全部原価計算を採用している。各期の資料は以下のとおりである。

1.販売単位は、各期ともに同一であった。

2.操業度差異は、各期の売上原価として処理する。

3.固定製造間接費の配賦基準には、生産量を採用している。
基準操業度は各期ともに350個である。

4.第1期の販売量300個、生産量350個、期末有高50個である。

5.第2期の販売量?個、生産量?個、期末有高40個である。

6.仕掛品は存在しない。


以下の文章の(ア)~(オ)に当てはまる適切な語句又は数字を答えなさい。

第2期の販売量が300個のとき(ア)原価計算による営業利益は第(イ)期より第(ウ)期の方が小さくなるが、直接原価計算による営業利益は、第(イ)期でも第(ウ)期も変わらない。


第2期の販売量が360個のとき(ア)原価計算による営業利益と直接原価計算における営業利益は、第(イ)期より第(ウ)期の方が大きい。

解答
(ア)全部(イ)1(ウ)2

解説

1.販売量が第1期と第2期が同じで、生産量が異なっいる場合

全部原価計算について、第1期は350個の生産量であったため、基準操業度350個で一致しているので操業度差異は生じない。第2期は290個の生産量であったため、(350個-290個)×固定費正常配賦率の操業度差異が生じる。
この差異を売上原価として処理する。

第1期と第2期の販売量が同じであるが、第1期は操業度差異が生じていないが、第2期は基準操業度以下の生産量のため、不利な操業度差異が生じ、第2期の売上原価が大きくなるので、その金額だけ第1期より第2期の営業利益は小さくなる。

直接原価計算については、売上高が増加すれば利益も増加し、売上高が減少すれば利益も減少して示す。
第1期と第2期も同額の固定費が計上されるので営業利益の変化はない。

2.販売量が異なっいるが、生産量は第1期と第2期と同じである場合

全部原価計算については、第1期と第2期とも生産量と基準操業度が一致しているので操業度差異は生じない。

直接原価計算については、第1期・第2期も同額の固定費が計上されるが、第1期より第2期の方が60個多く販売しているため全部原価計算の営業利益と直接原価計算の営業利益ともに第2期の方が大きい。


問題2

製品aは、製品の総原価を計算し、コスト・プラスの価格決定を行うことにした。

1.単位あたりの総原価1000円
2.目標売上高営業利益率20%

問1.マークアップ率を求めない。

問2.コスト・プラスの単位あたり販売価格を計算しなさい。


解答解説

問1.マークアップ率を求めるためには、単位あたり販売価格が不明のため、先にコスト・プラスの単位あたり販売価格を計算する。

単位あたり販売価格をXとして下記の式を解く。
(Xー@1000円)=0.2X
X=@1250円

次にコスト・プラスの単位あたり販売価格1250円に基づいてマークアップ率を求める。

{(1250円ー1000円)÷1000円}×100=25%