新田 次郎
桜島

 1975年5月発行。

 桜島の爆発の予知にこだわる気象官と火山学者との宿命的な対立を

描いた表題作『桜島』。ほかに富山のイタイイタイ病を題材にその原因究

明に生涯をかけた地方医者を描く『神通川』。国後島へ上陸し墓参を

試みる男を追った『北方領土』。いずれも力作のドキュメンタリー中篇小説。


 主人公あるいはそのまわりの人間に魅力がなければ、読みすすめるこ

とができない。新田氏の描く主人公にはこだわりがある。熱ともいっても

いいそのこだわりにわたしは、はまってしまう。


 『神通川』の主人公で地方医者の熊野正澄は、痛い痛いと泣き叫ぶ患者

を前にしてなんとかして助けてあげたいと強く思う。研究のために私財を

売り払う。根も葉もない中傷にあう。


 金銭欲もなければ、名誉欲もない。ただ、医者として一心に患者を救い

たいという気持ちがある。ああ、男だなあと感じる。一本のスジが通った男

になりたいものだ。