本格推理小説を書く小説家で、結末に驚かされる作品が多い(と私は思う)。
日本推理協会賞受賞、本格ミステリ大賞受賞者である。
 
 
短編それぞれのあらすじを「ーーー」内に書こうと思うが、もし読む機会がある方は、ネタバレはしていないが、元の乱歩の作品を読んでいて、歌野氏の作品を読むと冒頭から驚くところがあるので、あらすじも読まない方がいいかもしれない。
 
 
 
ーーーーー
[椅子?人間?]
原口涼花は小囃子萌音というペンネームで小説家である。
ある日、夫を送り出して一休みをしてからPCでSNSやメールをチェックしていると、知らないアドレスからメールが届いていた。
 
[スマホと旅する男]
世界遺産登録を記念して軍艦島でプロジェクションマッピングのイベントが行われることになった。
「私」は流行りものに弱いので船上から鑑賞できるイベントに参加するためチケットを入手したが、当日は台風が来ていて船が出ないと言われてしまう。
ボードウォークで座り込んでいると近くにスマホを片手にしゃべっている男がいた。
 
[Dの殺人事件、まことに恐ろしきは]
「私」は写真の専門学校を卒業したがスタジオなどで働かずにいたが、写真学校の同級生から興信所の仕事を紹介され、仕事の合間に公園で日高聖也という少年と出会った。
別の仕事が終わっても渋谷に行くようになる。
写真家として撮影させてもらったことのある薬局の女主人に通りがかりに挨拶をし、向かいのダイニングバーで写真をチェックしていると聖也が夕飯を食べにやって来た。
向かいの薬局が8時に閉まるはずがまだ空いていると聖也が不審に思い、見に行ったが、女店主が戻って来たので2人とも帰ることにした。
だが、店主が店の中に消えてから悲鳴が聞こえ…。
 
[「お勢登場」を読んだ男]
太郎は年の離れた若い妻とその父親と共に暮らしている。
義父は最近片付けを忘れたり、やらなければならないことを忘れてしまったりで、主夫の太郎は苦労していた。
若い妻は仕事だと言って出張が多いがきっと若い男がいるに違いないと思っていた。
そんなある日太郎は『お勢登場』という江戸川乱歩の作品を知り、義父を事故死に見せかける計画を練る。
 
[赤い部屋はいかにリフォームされたか]
「私」と三宅は目黒にある小劇場で江戸川乱歩の短編小説「赤い部屋」の舞台劇を観に来ていた。
原作のT氏の独白シーンは回想劇にアレンジされており、観客が舞台に上がるという大胆な変更も加えられていた。
その劇の途中で事件が起きる。
 
[陰獣幻戯]
彼は高校教師で、副校長の地位にあった。
彼は女性に対して異常すぎるほどの妄想癖があったが、女子生徒にも女教諭にも決して触れたりしない表と裏の顔を持って生活していた。
ある日趣味の街歩きをしていると雑貨屋があり、店主が乱歩の小説の「小山田静子」を思わせる雰囲気だったので店に入ってみることにした。
 
[人でなしの恋からはじまる物語]
真庭一騎と「私」は錦糸町のビアレストランで知り合った。
真庭は厨房の正社員で「私」はホールの担当だった。職場ではチーフは店長からケジメをつけろと注意されるほど仲良くしていた。
結婚して半年、一年と過ごすうちに掛け合う言葉はひどいものになっていった。
ーーーーー
 
ミステリファンであれば、本作品の表題を始め、それぞれのタイトルを読めばだいたい想像がつくと思うが、江戸川乱歩の作品が絡んでくる。
作品によって現代風にアレンジしていたり、人物設定が似てはいるが違ったり、と工夫を凝らしている。
 
「椅子?人間!」
なんとなく予想がつく読者もいるかもしれない…と思った。
 
「スマホと旅する男」
乱歩の作品とはだいぶ違っていると思う。
ヒントを得て、発想の元にはなっているとは思うが結末はまさか…だった。
 
「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」
乱歩の作品中と同じ犯人目撃の服装の色について謎解きがあるが、その部分は多少無理があるものの、全体と結末は歌野氏のオリジナルと言えると思う。
 
「「お勢登場」を読んだ男」
そこまでするんだ、と一度裏切りを決めた人間の怖さを感じる。
又、謎解き側からしたらトリックにあたる部分は全く現代のもので、なるほどと唸ってしまう。
 
「赤い部屋はいかにリフォームされたか」
これに関しては乱歩の劇が出てくるので、「赤い部屋」の方を読んでいた方がより楽しめると思う。
乱歩の「赤い部屋」もどんでん返しに驚かされるが…ともっと感想を書きたいところだが歌野氏に怒られそうなのでここまでに。
 
「陰獣幻戯」
乱歩の文庫本の話や代表作が何作か登場人物の話題にのぼる。ラストは驚愕。
 
「人でなしの恋からはじまる物語」
乱歩の「人でなしの恋」は読んだことがない。
元になった話はあらすじが書かれているのでそこを読んだが多分全く違う話だと思う。
やはり結末は「!」となる。
 
 
 
全体を通して、乱歩のおどろおどろしい感じがなく、現代の機器を使ってのトリックや謎解きが扱われていて、乱歩にヒントを得てはいるが全く雰囲気は違っているものが多い。
一作だけ元の話を読んだことはないが楽しめたので、全話全く知らなくても1話ごとに元ネタ(?)になった話のあらすじが書かれているので、大丈夫かとは思う。
ただ、読んだことがあった方がより楽しいのではないかと思う。
 
 
{BE600B8B-A72F-42A9-94E1-A5C25CDA788B}