麒麟(チリン)のところへ王永江(ワン・エイジャン)が張作霖を探してやってきた

 

王永江「今日と言う今日は今後について総攬把の真意をただそうと思ったのだが・・」

 

麒麟「総攬把はこの頃ふらりと出かけることが多いようだ」

 

王永江「どうも総攬把は山海関(サンカイカン)を超えようとしている。満州の王でよいではないか。北京の政権との間には長城と言う国境があるのだ。それを超えて中原の覇者となる理由は何もないんだ」

 

麒麟「総攬把が満州の王になったらあんたは宰相だ。俺たちの代わりはいくらでもいるが、あんたに代わる人間はいないんだぜ」

 

まったく・・という困り顔の王永江である

 

 

そのころ一人で故郷の墓参に出かけていた張作霖は、帰り道で大樹の下に座り込んでいる白太太に20年ぶりに出会った

 

張作霖「よう、婆さん。久しぶりじゃないか。まだ生きていたか」

 

白太太「・・おお、思い出したぞ。親も銭もない流民の子が満州の王となったか」

 

張作霖「ああ、婆さんのありがたい予言が励みになったぜ」

 

白太太「・・おまえさん、どこぞ遠くへ行くのかえ」

 

張作霖「ああ。満州も悪かねえが長城を超えようと決めた」

 

白太太「汝にそこまでの力はないぞ。やめておけ、汝の天命は『満州の王』じゃ」

 

張作霖「その天命とやらに逆らえばどうなる」

 

白太太「しれたことよ。五体ことごとく玉と砕けよう」

 

張作霖「上等だ。跡形もなく砕ければいい。この世に張作霖の生きた印もないくらいにな」

 

白太太「なぜじゃ、何故そのようなことを・・」

 

張作霖「しるか!俺は破れかぶれの貧乏人だ」

 

白太太「富も権力も手に入れたであろうに」

 

張作霖「さあな。俺はそう思わねえ」

 

白太太「いったい何人の命を奪えば気が済むのじゃ。十万か、百万か」

 

張作霖「百万も千万も殺してやるさ。100年後に十億の民が腹一杯食って天寿を全うできればそれでよかろう」

 

白太太「おまえは神か悪魔か」

 

張作霖「俺様は神でも悪魔でも鬼でもない。いいや、あいにく人間でもないのさ。俺様は貧乏人だ!張作霖だ!わかるか婆さん」

 

白太太「ああ。百年生きてやっとまことの勇者の声を聞いたわ。行くがいい張作霖。遥かなる中原の虹を目指して」

 

 

 

張作霖は己の天命である「満州の王」で留まろうとしなかった。

 

満州の民だけを幸福にしたところで、逆に長城を超えて人が押し寄せて来る。

 

中国全土の貧乏人を救わねば、この国を飢える民のない国にはできないのだと決心したのである。