いよいよ春雷と春児兄弟の距離が近づいてきています

 

袁世凱は中華民国総統からより権力の集中をはかり、皇帝になろうとしていた。

 

そのために中華皇帝のみしるしである「龍玉」を張作霖から買い取ろうと使者に春児をたて大連へ向かわせた。

 

会談場所のヤマトホテルでお供を一人連れて張作霖の代理人を待っているところに寿安(シュウアン)と出くわす。

 

寿安「まあ春児、何という偶然でございましょう」

 

春児「(立ち上がり)これは寿安様。お久しぶりでございます」

 

寿安「あなたは今も宮廷に残って宣統陛下のお世話をなさっているのね。私はこれからアメリカに渡りますの」

 

春児「さようでございますか」

 

寿安「春児、あなたがなぜここに居るのか知っていてよ。袁世凱、あの男から密命を受けて張作霖に会いに行くのでしょう。あの男は『金ならいくらでも払うから龍玉を買ってこい』とか言ったのでしょう」

 

春児「寿安様・・」

 

寿安「私の地獄耳はおばあさま譲りよ。でもどうしてその龍玉を張作霖が持っているのかしら。もしかしたら彼がいつか長城を超えて袁世凱を破って中原の覇者となるのかしら」

 

春児「龍玉は天命のみしるしだと西太后様が仰せでした」

 

寿安「私たちはやはり中国人ね。これだけ西洋の価値観に取り囲まれても科学よりも伝説を信じてしまう・・春児、あなたが無体な命令に従った本当の理由を存じておりましてよ。幼い頃に生き別れたお兄様に30年ぶりで会えるかもしれない・・」

 

春児「なぜ、兄のことを・・」

 

寿安「おばあさまがこう言ったの『こんなにもよくしてくれた春児に私は何もしてあげられない。だからせめて一目なりとも生き別れた兄さんに合わせてあげておくれ・・』と」

 

春児「勿体ないお言葉でございます」

 

寿安「あなたのお兄様は他人のしつらえたお膳に箸をつける人ではないわ。それから張作霖はこういったの『袁世凱のくそったれが俺様に龍玉を譲れとぬかしやがるか!大連まで出てこいだと?天下のやり取りなら山海関で聞いてやる』って」

 

春児「張作霖とはそのようなお方なのですね」

 

寿安「それから『俺様が行かねえとなればこっちの使者は李春雷しかいない。そう考えりゃ姐さんよ、兄弟が巡り合う段取りはお天帝様がとうにつけていて下すったわけだ』と言ったわ」

 

春児「会談をを成功させて龍玉を買い取ることはできるでしょうか」

 

寿安「春児、おばあさまになったつもりで言うわよ『大総監大鑑として李将軍に会ってはいけない。そんなばかばかしい会談など忘れてお前は李春雲として兄さんに会って手を取り合って泣くがいい』」

 

春児「勿体ないお言葉でございます」

 

寿安「あなたたちはえらいわ。立ち枯れたコウリャン畑から這い出した兄弟が、大変な苦労をして大総管となり将軍となったのだから」

 

寿安を迎えに来た車の到着する音がする

 

寿安「では私はこれで。船の時間が迫っておりますから」

 

寿安に深く礼をして二人は別れ、春児はお供を連れて2階へ上がって行った。

 

寿安が回転扉を押して出て行くと、すれ違いに部下を連れた春雷が入って来る

 

 

さあ、それぞれ袁世凱と張作霖の使者の立場として、いよいよ30年ぶりの兄弟の再会とあいなりまする・・