奉天総督の趙オルシャンが張作霖との会議に訪れた。老齢の彼が赴任してから満州は平和であったが、張作霖が革命派の幹部を皆殺しにして均衡は破られた。

 

王永江(ワン・エイジャン)が総督を迎える

 

王永江「お待ちしておりました閣下」

 

オルシャン「君はたしか・・」

 

王永江「はい。かつて閣下に警察学校の開設について説明した王永江であります。今は張作霖将軍の元におります」

 

オルシャン「そうか。君のような才子が付いていると知って安心したよ」

 

会議場に入ると馬賊たちが円卓についている。ふたりが席に着く

 

オルシャン「まず尋ねておきたい。張作霖、貴官が掌握する兵力は現在いかほどかな」

 

馬賊たちに笑い声が起きる

 

張作霖「総督さんの軍隊じゃないのか」

 

オルシャン「今やそうとは言えまい。かつて袁世凱が送り込んだ一個師団は君の馬賊団に吸い込まれた。その軍隊を今更私の兵だとは言えない」

 

張作霖「欲のない野郎だ。だがいい答えだ」

 

オルシャン「君も答えたまえ」

 

張作霖「俺様が革命派の幹部を殺しても、叱るでもない調べるでもない。てめえの寝首を搔くかもしれない軍隊がいったい何人いるか知らないとは笑い種だぜ」

 

オルシャン「たしかに。恥じねばならないことだ」

 

張作霖「いいか、まずここに居る野郎どもの子分が5千。袁世凱が熨斗つけてよこした兵が2万。それにあんたの軍隊」

 

オルシャン「正規軍12万5千と合わせると、15万という事か」

 

張作霖「さあ・・俺様は生まれついて勘定が苦手だが、まさかそれっぽっちじゃあるまい。知りたいか?」

 

オルシャン「ああ」

 

張作霖「(指を一本たてて)100万は下るまい。これで分かったろう。袁世凱でもなんでも来るなら来い。喧嘩はいつだって買ってやる」

 

オルシャン「戦争は喧嘩ではない。袁世凱にも孫文にも西洋人の後ろ盾があるのだぞ」

 

張作霖「その心配なら無用だぜ。袁世凱が恵んでくれた軍隊には日本の士官学校を出た奴が大勢いる」

 

オルシャン「それはいい方法ではない。日本はいずれ満州を我が物にせんと企んでいる」

 

張作霖「百も承知だ」

 

オルシャン「西洋人の目的は利権だが日本は国土を欲しているのだ」

 

張作霖「ああ、それだって百も承知さ。やれるもんならやってみろ、喧嘩はいつだって買ってやる」

 

もはや軍閥と言うほどに規模が大きくなった軍隊を率いながら、いまだに馬賊の喧嘩気分でいる張作霖に半ば呆れて、趙オルシャンはしばらく目をつむった。