日本人将校の吉永勝は傷が癒えた後も張作霖という人物に魅せられ馬賊と共に暮らしていた。

話し相手を探して奉天の繁華街にある茶館に入り、一人の男の前に立った。

 

吉永勝「よろしいですか。一人なので話相手を探しているのです」

 

王永江「どうぞ」

 

吉永が席につくと

 

王永江「ご出身はどちらだね」

 

吉永勝「私は日本人なのです。吉永勝といいます」

 

王永江「私は王永江だ。(吉永の顔をじっくり見て)うーん、君はいい人相をしているね」

 

吉永勝「易学の先生でしたか」

 

王永江「本業ではないがね。つい先頃まで警察学校の教官をしていたんだが、賄賂をよこせと言った役人に茶をぶっかけて辞めてしまった。だいたい私には運が無いのだ」

 

吉永勝「ご自分を占ったことは?」

 

王永江「そろそろ運命が大逆転するころなんだが・・この国の衰退ぶりを見るにつけて今更運気の好転など信じることは出来んよ。(一口酒を飲み)ところで君は張作霖を知っているかね」

 

吉永勝「名前は知っています。馬賊の大頭目ですね」

 

王永江「あれはただ者ではない。コサックを討伐して総督府に来ているときに顔を見たが、あんな骨相は他に見たことが無い。奴が帰り際に『鬼でも仏でもない。俺様は張作霖だ』と言った言葉が私の胸に響いてね。己が王永江たることを目覚めさせてくれたよ」

 

吉永勝「御立派ですよ先生。彼について他に知るところはありませんか」

 

王永江「袁世凱が蒙古族の勢力を鎮圧するために一個師団を動員して張作霖に指揮させようとしている」

 

吉永勝「一個師団と言えば2万人の大部隊です。馬賊の頭目をその師団長にするなんて無理なことです。袁世凱は一体何を考えているのでしょう」

 

王永江「奴はじっくり考えてことに当たらない。ほとんど思い付きで判断するのだがそれがまたよく当たるのだ。だが、この策を練ったのは奉天総督の徐世昌だろう」

 

吉永勝「張作霖はどうするでしょう。彼はそれほどバカではありません。袁世凱や徐世昌の仕掛けた罠にまんまとはまりはしないでしょう」

 

王永江「きみはもしかして軍人なのか・・まあ、どうでもいい。私の興味は君ではない。馬鹿でも利口でも鬼でも仏でもない張作霖だ」

 

吉永は根城へ帰ってこの日のことを張作霖に報告するのであった

 

 

北京で徐世昌が袁世凱に耳打ちした話はこれだったのです。早いうちに張作霖の勢いを削ぐ作戦ですがさて・・