年末になると馬賊たちは給金を貰って郷里に帰る。歳が改まればよその馬賊団に雇われてもいいし、戻ってくれば引き続き張作霖の配下となるのである。
春雷が所帯を持った銀花(インファ)と大みそかの食事をとっているところへ秀芳が出撃の装束で駈け込んで来た。
秀芳「雷哥(レイコウ)、出撃だぞ!」
春雷「冗談はよせ、正月だぞ」
秀芳「パイチーパオの駅で列車がやられたと老狗(ラオゴオ)から知らせが来た」
春雷は弾薬を掛け紅い頭巾を巻いて外へ出ると張作霖の白馬が駆けて行く
張作霖「続け!ぼやぼやするな!」
春雷と秀芳が馬に乗り駆け出して行く
そのころ駅では銃撃戦が終わり、強盗が貨車から荷物を引き出して馬に乗せていた
強盗「とっととずらかろうぜ。張作霖の援軍が来たら厄介だ」
強盗が去って行くと蹄の音が地を揺るがし近づいてきた。春雷と秀芳が駆け込んできて
秀芳「老狗、無事か!」
老狗「ここだ!」
声のする駅長室へ行くと年配の老狗と足を負傷した日本人将校が逃げ込んでいる
張作霖「日本の軍人か」
吉永「ああ、列車に乗っていて足を撃たれた(公用証を差し出す)」
張作霖「(受け取って見て)奉天までの公用か。無事で何よりだ。日本人の将校が殺されたらあとが面倒だ」
春雷が列車の中を確かめてから駅長室に入って来て
春雷「盗賊の姿はありません」
張作霖「そうか、かっぱわれた荷はアヘンだろう。盗っ人の目星はついている。正月が明けたら皆殺しだ」
秀芳が吉永の軍帽を拾って渡す
張作霖「あんた、奉天まで送ろうか。それとも俺たちの根城で手当てをしていくか」
吉永「すまないが養生させてくれ」
張作霖「好、それがいい。奉天には伝令を出しておこう。(公用証を返して)張作霖が預かっていると言えば誰も文句は言わない」
吉永「(驚いて)張作霖総攬把・・」
張作霖「ああ、あんたの名前は」
吉永「吉永勝(まさる)だ」
秀芳と老狗が吉永を抱えて立ち上がらせ引き揚げて行く
老狗(ラオゴオ)の「狗」は犬の意。虎に猫に麒麟に犬です
吉永勝の父親は早稲田大学の中国語の教授で、日本へ亡命した文秀と玲玲の身元引受人であります。
中国の留学生が集まる中で育った勝は中国語に堪能になり、軍人になると満州に派遣されて張作霖と出会い、彼に惹かれ行動を共にすることになります。