白猫(パイマオ)と別れて春雷はシンシャン村へ下見に向かった。途中で大樹の根元にうずくまる老婆を見かけ馬を降りて近づいてみた

 

春雷「白太太か?まさかこんな所で・・」

 

白太太「通りすがりの壮士が、かつて親しく知った顔に見える。さて・・汝は李家の春雷というたな。春の雷で春雷。おまえは強い名をもろうて幸せじゃ」

 

春雷「おふくろはどうなった、春児は、玲玲は!」

 

白太太「よう尋ねられたものよ。母と兄はとうに亡くなった。春児と玲玲は達者に暮らしておる」

 

春雷「どこにいる!どこでどんな風に暮らしているんだ」

 

白太太「汝に語るべきではあるまい。しかしおまえは悪い顔になったのう。一体いくつの命を奪った」

 

春雷「さあな。五つ六つまでは覚えていたが、その先は数えるのもいやになった」

 

白太太「夜明け前におまえのような悪い人相をした馬賊が通り過ぎたが・・戦が起こるのか」

 

春雷「ああ、明日の朝シンシャン村を攻める」

 

白太太「なんと。官軍でも手出しの出来ぬロシア人を攻めるとは、どこの命知らずの攬把だね」

 

春雷「張作霖総攬把さ」

 

白太太「そうか、村を食い尽くしたコサック兵を倒せるのは白虎張しかおるまいと思うておった」

 

春雷「婆さん、俺は明日の戦で死ぬか?」

 

白太太「いや、おまえが張作霖より先に死ぬことはあるまい。春雷、お前はその名のように、風のごとく雷(いかづち)のごとく猛く満州の大地を駆けるがよい。コサックのまとう緋色の羅紗を頭に巻いて勇者のあかしとするのだ」

 

春雷「緋色の羅紗か。覚えておこう」

 

馬に乗り鞭を打ち駆けだして行く春雷を見送りながら

 

白太太「汝は大将軍の姿で天を呪い、粉々に砕け散った肉のかけらを両手にすくい『殺すなら俺を殺せ』と泣きわめいておる・・」