昭姫の店では、長谷雄が机に向かって必死に何か書いている

 

長谷雄「これ、あとどれだけあるんですか?」

 

昭姫「まだお代の足しにもなりませんよ。今日中に傷んだ荷札を全部書き直しておいてくださいねえ」

 

長谷雄「管三殿も手伝って下さいよぉー。業平殿が払ってくれるって言ってたのにー!」

 

昭姫「(道真に)それで、『神様のお導き』とやらをどうやったんですの?」

 

道真「手鏡の光を使っただけですよ。雲母の粉を道筋の草に塗ったんです。そこに光を当てるとよく光るんです。薄暗い竹藪の中に妙な光があったらきっと目で追うでしょう」

 

昭姫「それで一番光の差し込むところに赤ん坊がいれば・・」

 

長谷雄「神様の子だとおもいますよぉ」

 

道真「握らせた数珠玉にもすぐ気づいてくれてよかった。まあ子供だましですけど。あの奥方が信心深かったのでなんとかなりました」

 

昭姫「でも何だか寂しくなっちゃいましたね」

 

フキ「長谷雄様も自分の子が欲しくなられました?」

 

長谷雄「いえいえ、私はまだ親になる資格はありません。自分の子ではないとすぐに言い切る自信がなかったし・・」

 

一同、うんうんとうなづく

 

長谷雄「(立ち上がってきっぱりと)これからは、ちゃんと出会った女性の事は詳細に記録しておこうと思います!」

 

一同ずっこける

 

道真宅である。父の是善が帰宅した

 

桂木「大殿、お帰りなさいませ」

 

道真「父上、お出かけでしたか」

 

是善「ああ。権少納言の屋敷に祝いの魚と米を届けてきたところだ。奥方が懐妊していたのは知らなかったが。少納言様は私より10も年上なのだぞ。赤子というのはまこと、天よりの授かりものだな」

 

道真「その娘御は元気でしたか?」

 

是善「見せてはもらえなんだが、たいそうな溺愛ぶりでな・・はて、娘と言ったかな?そなた、何か知っているのか?」

 

道真「いいえ、まさか。何も存じません。子は天よりの授かりものですから」

 

 

  ー幕ー