大学寮で藤原紀長が友人と話している

 

友人「紀長、西の市の女どうだったよ?」

 

紀長「やーダメだな。思ったより歳でさ。見に行ったらがっかりだよ」

 

長谷雄が近づき紀長にぶつかる

 

紀長「痛って!」

 

長谷雄「失礼、すみませ・・うわっ(怯えるように紀長を指さし)それ、わあー(走り去る)」

 

紀長「(長谷雄の方へ向き)何だあいつ、どこ見て話してんだ」

 

友人「(紀長の背中を指さして)おい!紀長、背中のそれどうしたんだよ」

 

紀長「えっ?背中が何だって?」

 

友人「子供の手形がついているぞ(近くに寄って見る)・・血?」

 

紀長「はあ?何だ?(手を背中にやって見ると血がついている)」

 

友人「おい、例の女、子供が出来たって言ってたよな。様子見に行けよ、妙な呪いとかじゃないよな」

 

紀長が家に戻ると門を下男が雑巾で拭いている

 

下男「おや坊ちゃま、もうお帰りですか?」

 

紀長「じい、何をしている」

 

下男「いやあ、門に子供の手形のような汚れが着いちまって。野犬ですかね」

 

紀長「(怯えて)お、俺はもう寝る!誰が来ても門を開けるなよ!(門の中へ駈け込んでいく)」

 

真夜中になり紀長は布団の中にいる。するとかすかに赤子の泣く声が聞こえてきて、震え始める」

 

紀長「まさか、そんな・・俺を呪うのか・・」

 

門の外では道真達が赤子を連れて歩いている

 

昭姫「夜風が気持ちいいね。(長谷雄が抱いている赤子を見て)お泣き、お泣き。ここのバカ息子にようく聞こえるようにね」

 

長谷雄「よしよし、帰ったらお乳をもらおうねえ。これ、あと三日もやったら紀長の奴、さすがに懲りるんじゃないですかね」

 

道真は屋敷の壁に手形を押し続けている

 

昭姫「(道真に寄り)よくまあ、こんないたずら思いつきますわね」

 

道真「いたずらじゃありません。れっきとした嫌がらせです」

 

昭姫「何だか楽しくなってきたね。ヨリの子も連れて来ようかねえ」

 

長谷雄「いいですね。よしよし(あやしながら)明日も来ようねえ」

 

赤子の夜泣きは続く・・