「玩具みたいに扱って欲しい」
女の切なる訴えに「わかった。覚悟しろ」と冷たく言い放った。
望みを叶えてやる。これもひとつの愛情だ、と男は思っていた。
男の激しい肉の侵襲に女は苦痛の声を上げ、時折色を混じらせている。
「私は、物みたいでいいのっ」
暗闇の中で男の背中に爪を立てる。
せめてもの、反撃か。それとも、印か。男は思った。
日没間際に見た大規模な開発地帯のいくつものクレーン。
少しでも、この女を引き上げられるだろうか、と男は思っていた。
更地には計画的に建てなければ、取り返しのつかないことになる。
鷲づかみにされた胸。
「くっ」
一瞬のうめき。
何を作り上げるか。
陵辱にも似たやり取り。
叩き伏せるような肉の重圧。
押し込めつんざく様な荒々しい肉の脈動。
女の耳に届く男の声。
――これがお前の救いなのならば。
女の冷たい心が男の魂に触れる。
長かった孤独。
不審渦巻く沈黙。
屈服の後の裏切り。
そして気まぐれ。
移りげなナイフばかりちらつかされてきた女は恐怖に震えていることだろう。
いつ、この男も私を捨てるのか。
そればかりを考えているのだろう。
女の魂の奥に入っていけば漆黒の寒冷地があることだろう。
男の魂の奥に入っていけば冷徹な計算と遠くを見通す瞳があることだろう。
極寒の地に住む人間は凍傷になった時、雪にその部位を擦り付けて摩擦熱であたためるという。
男は女の首に手をかけ耳元で囁く。
「死にたくなったらいつでも殺してやる。だが、俺のためにこれからは生きろ」
男の言葉はむしろ女への契約に等しい。
命一つを背負うと言っているからだ。
暗闇の外では救急車の音が鳴り響き遠くへと消えた。
「お前の願いを叶えてやる」
女の胸に冷たく滑り込んでくる声。
「ありがとう」
涙を流した後の女の激しい乱れ。
解放されたかのように狂い匂いを放つ。
穢しの儀式。
命を抱く儀式。
悲しみを背負う契約。
男は肉を刺す。
最後の止めをさされ、女は果てる。
「夜明けまでは、まだ長いぞ」
女の頬を強く掴み、男は冷たい目で見下す。
「まだ始まったばかりだ」
女の返事を待つ前に、再度激しく責め立てる。
氷が溶ければ辺りは濡れるだろう。
だが時間も経てば再度凍っていく。
余計な考えは一切ない。男には「この女をものにしたい」という感情しかない。
女も恋や愛などといった感情は期待していなかった。
ない方が安心感がある。
「今度お前にアクセサリーをやろう。毎日つけろ」
「はっ、いっ」
――お前という、海を泳ごう。
男は暗闇の中で密かに誓っていた。