福岡の大学に在籍していた頃、
犬鳴峠(いぬなきとうげ)の噂は聞いていた。


当時、女友達から聞いた話。


ある夜、
彼女の知り合いが車で犬鳴峠を訪れたら、
犬鳴トンネルの所で車が突然止まったらしい。


数人乗った車内は数分間パニックに。


暫くして、車は無事エンジンがかかり、
慌てて逃げ帰ったらしいが……


車の窓には手形がいっぱい付いていたとか。


嘘か真かは判らないものの、
当然カムイは行く気などさらさら無かった
のだが……


ある夜、友達の寮に遊びに行ったら、
彼の後輩が部屋に来ていた。


後輩の愛車が色替えの全塗装を終えて、
戻って来たばかりらしい。


これからドライブに行くとか。


カムイも便乗させてもらい、
3人の乗った白いスカイラインは
夜のドライブへと出掛けた。


福岡市内をあちこち走り回っていたのだが、
事もあろうに後輩が犬鳴峠に行きたいと
言い出した。


カムイは当然反対したのだが、
運転手の強い希望と多数決に負けて、
深夜の犬鳴峠を訪れることになってしまった。


峠にある旧道の旧犬鳴トンネルは
運良く通行止めの看板とフェンス。
崩落の危険があるのか、治安の維持の為かは
判らない。


無難にトンネル入り口付近で引き返した。


しかし、後輩は満足せず、
新道バイパスに向かってしまい、
新犬鳴トンネルを往復する。


運転中の後輩は窓を開けて、あろうことか、
「幽霊出てこい」と何度も叫ぶ始末。


助手席の友達はビビりまくって、
「止めろ」を連発。


実は後ろの席のカムイは
新犬鳴トンネルに入った途端、
金縛り状態になって、シートに倒れていた。


視界は何故か真っ赤。そして酷い耳鳴り。
間違いなく、ここにいる者の怒りを感じた。


カムイは犬鳴峠を離れるにつれて、
身体の強張りが取れて楽になった。


恐怖と緊張感から解放されてか、
皆お腹が空いたので、
何処かで食事をしようと言うことに。


途中のロイヤルホストを見付けて、
我々の車が駐車場に入った途端……


ドン!


他の車がぶつかって来たのである。
運転席側の大きな凹みに一瞬冷えた。


スカイラインの再度板金修理工場行きが
決定した瞬間だった。


犬鳴峠の祟りかもしれないが、
3人とも怪我がなかったのが幸いである。


次の日、友人と二人で宗像大社に参拝して、
軽率で愚かな行動をしたことを詫びた。


何だか身体が軽くなった気がした。


肝試しや興味本位で曰く付きの場所に
赴くお方もあるようだが、
運が悪くなるどころか、ただでは済まない
危険もあることを知るべきである。


勿論あの日以来犬鳴峠へは近付いてもいない。







お盆にあった不思議な話↙️