フラスコの外側 | 風紋

風紋

鋼の錬金術師ファンの雑文ブログ



  リンとランファンに愛が偏っています

西を目指したのには特段の理由はない。
恐慌をきたし逃げるように去るホーエンハイムの向かった先が東だった。
ならば私は西へ向かおう。
せっかく与えてやった永遠に近い命の価値もわからずただ怯え、私を忌む
目をして震えるだけとは、あれの胆力を私は見誤っていたのだ。
私といればもっとこの世を謳歌できるというのに、せっかく私が見込んで
知識を与えてやった唯一の人間だというのに。
ただの人間以上の存在になれたことを誇ればいいものを、愚かな。


乾いた荒野のなかの肥沃なオアシス国家・クセルクセスは用済みになった。
西に向かった私は更に力を得るために人間どもを動かした。
西の小国アメストリスは近接する強硬な宗主国からの独立革命を起こし、
それの成功によって革命政府の治める軍事国家として産声をあげた。
何の造作もない。
「理想」というものを掲げてやれば人間どもの中の活発で野心に満ちた者
は勝手にほかの人間どもを束ねて、同じように束ねられた別の人間どもと
敵対し力でねじふせ取り込もうとする。生命を維持するための魂をただひ
とつしか持たぬというのに、人間どもは自らの命を投げ出し無駄に血を流
してまで国家とやらを拡大させようと躍起になった。


最初はリヴィエア。
北方を峻険な山に守られ、滔々とした大河に恵まれた豊饒かつ小さな都市
国家は穏健で寛大な領主のもとで安寧をむさぼっていた。せいぜい取り込
まれるがいい。アメストリスの人間どもは貪欲に、自分たちの未だ持たぬ
ものを欲して奪い取り犯し屈服させた。


カメロンの独立は阻まれた。
地縁で結束した農兵集団を持つカメロン地方には、アメストリス中央軍部
の有無を言わせぬ統制に反発する気風があった。やがて反対運動から独立
を目指す内乱へと変わったそれは当然封じられた。多くの血とともに。
それを潰した者どもは、自分が踏みにじり立つ足元を思ったことがあった
だろうか。
なにも考えてはいなかっただろう。
自分たちの祖が成しえたことと同じことを、彼らには許さぬその矛盾の出
処はどこにあるのかなどと。
人間どもには100年の年月は長すぎて、記録は伝えても実感としての記憶
を維持できない。それが奴らの限界。


まれに見込みのある人間も出てくる。
デレク・ソープマン、北方軍師団長の国軍准将。
鉄道敷設に端を発した疑獄事件は政治結社から反政府運動の活動家や大物
テロリストまでを動かし、列車爆破やフィスク駅占拠など次々と流血沙汰
の連鎖を起こしてくれた。
どさくさに紛れドラクマまでが色気を出して侵攻し混乱状態のフィスクを
支配下に置こうとしたが、アメストリス国軍は容赦なくそれを蹴散らした
だけでなく一般市民まで巻き込んで街を焦土へと変えた。
ソープマンが何をしたかったのかはわからぬが、奴は間違いなく人間ども
を動かすことに酔い、命を左右することに酔っていた。
実に使える駒だったが腹心の部下に刺されて死んだ。あっけない死だった。


大きな事件は模倣される。
ウェルズリ事件はソープマン事件を矮小にしたつまらぬ地方テロだった。
ただこの時期格段に性能をあげた殺傷兵器の威力は大きく、流血の多寡で
いえばソープマン事件にも並んだだろう。
私には、というより錬成陣のポイントとしては都合がよかった。


国境線というものは流血の事件を起こすのに最適の装置だ。
南部・そして西部の国境戦線は「国を守る」という大義のために人間ども
の命を消費し続けている。



私の野望の完遂にはあと少し。
だが、もうすぐそれが叶うというのにこの空虚さは何なのだろう。
この国を使って起こしたことはすべて私の企みなのに、その嵐はいささか
も私に影響しない。コップの中の嵐。
まあ仕方のないことなのだろう。私はこの世界で唯一の存在なのだから。
私は退屈したのだ。人間どもの相手に飽いたのだ。
抱える空虚をそうなだめて、私は錬成陣に駒を置く。






あとがき:


なぜこんなモノを書いた・・・ッ!! 
自分でもわけがわかりませんが、初めてで今のところ唯一、夢で見た鋼の
キャラがこのフラスコの中の小人だったというオソロシイ事実。
あまりに意外すぎたので、翌朝ネタ帳に書きとめてたのを今回作品化。
夢のなかでフラスコはホーエンハイムを恋しがるヤンデレちゃんでした。
私から逃げ出しやがって、見返してやる!とばかりに事を起こすフラスコ
の歴史を史実らしく捏造してみましたが、これ誰が面白いんだろう・・・