人には人の思い出が | 牛久の小盆栽 ながちゃんのブログ

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伝統的な盆栽愛好者の姿は、培養歴6年で樹齢150年、200万円の五葉松を出入りの業者に任せる旦那でした。「なんとか盆栽展示会」にその蔵者が得意げ写真におさまる、とか。私は貧乏なので全て実生、挿し木の小盆栽です。



猿梨


写真は猿梨(さるなし)。


サルナシ=マタタビ科のつる性植物です。
果実の別名はコクワ、シラクチ。


キウイフルーツによく似た果実で、あっさりした甘さなので、ムシ食い痕など気にしなければいくらでも食べられます。


去年の秋、原因不明の落下で実のなくなったこの「サルナシ」のツルを剪定していました。
花後に伸びた長枝は枝分かれ近くまで、切り戻し、やや太めの短い枝に結実の祈りを込めて、ボケ爺には珍しく丁寧な作業をしていました

秋の残照の中に時間を惜しむように、サルナシの剪定をしていたのですが、道行くご老人がしばらく歩を止めてしばらく御覧になっていました。


道行くご老人が無言で、剪定作業のボケ爺が無口で、かような作業を黙々と続けるのもなんだか不思議な気がしました。
「あ、こんにちは」
爺がいかに無口だと「今日は」ぐらいは言えます。
「あ、こんにちは。コクワのお手入れですか?手間がかかりますね」
「コクワ?あ、これですか。これはこの辺りではサルナシと言います」
ご老人は頷きつつ御覧になる。


「実はね、私はこの道を毎日散歩で通っておりましてね。このコクワを実に懐かしく眺めていたのですよ。戦後の食べ物のない時代に、私の父は私の手を引いて山には入り、このコクワやアケビを採ってくれたのです。懐かしいですなあ」


このご老人との会話は日没近くまで続いたのです。
人にはその人ごとに、胸に秘めた思い出があるもので、これはリクツで解こうとしても決して叶わない。
ご老人とは別れを告げてそのままになってしまったが、今もこの道を逍遙されるのだろうか。
今年の秋は形のいいサルナシをパックに詰めてかのご老人に進呈したいものである。


駄句1句。
秋さらばコクワ実食はん覚えおく


腰折れ1首。
戦後の日コクワの甘さよ剪定しつつ楽しみ仕舞ふ