写真は海老根(えびね)。
海老根、別名地海老根、薮海老根。
海老根の名の由来は、地中浅く広がる根が「エビ」に似ているから付けられたらしいですね。
数少ない日本野生蘭の1種です。
花後の、万年青(おもと)に似た葉は倒伏したま春を迎えます。
あまり美味くもなかろう、と思うのですが、冬越しの常緑の葉はムシの餌、食い荒らされて無残に見えるのです。
「春さらば」いいですか「春さらば」ですよ、決して「春よさようなら」ではありません。
春さらば、倒伏した葉を押し除けて新茎がすいと立ち、茎の両脇に花が咲くのです。
なあんて利いた風なゴタクを並べるより「春になると」と書けばいいものを、「小学生の作文」と評されるのをおそれ「春さらば」と逃げをうつのです。
あ、いえいえ、ここは海老根について。
爺の子供時分には海老根など何処にもありましたな。
どこにも、と申しても縁の下などには自生致しません。
やや明るい陽の差す手入れされた林の中がもっとも居心地が良さそうでした。
如何なる理由からか、30年ほど前から「海老根栽培」が爆発的に流行をしまして、どこの爺も婆もスコップ担いで海老根盗掘が始まりました。
スコップを担いで山野に分けいってるのだから、よしゃ海老根がないとて懐を空しゅうして帰られようぞ。
海老根を掘るついでに竹の根(これは杖やパイプのいい材料です)などを掘り返し、盗んで行く。
あっという間に屋敷山などは「法界坊」状態になりましたな。
やっとの思いで持ち帰った藪海老根を移植するのは容易ではなく、たいていはウィルスの影響で、花蕾が落ちダメになりました。
流行は短期間で収束し、海老根の消えた原野は荒れたまま。
で、現在に至っているのです。
雑俳5句。
海老根咲く占野も今や宅地なり
(占野=しめの 立ち入り禁止の野)
薮海老根伏葉払ひて咲き揃ふ
向き揃へ海老根蘭花すいと伸ぶ
海老根の根うんと曲がりて素直花
黄海老根の咲きにし原野杉を植う
腰折れ1首。
我が宿の海老根の園に春さりて地海老根黄海老根とりどり咲けり