『映像の世紀バタフライエフェクト 奇妙な果実 怒りと悲しみのバトン』(第68回  24年5月)


 「奇妙な果実」とは、1939年に黒人女性ジャズシンガー、ビリー・ホリデイ(1915-1959)によって発表された楽曲。黒人差別が根強い時代、白人にリンチを受けて死亡した黒人を木につるし、それを果実に見立てた歌で、黒人自らが人種差別を告発した曲。20世紀最高の歌と評されている。

 そして、この曲がプロテストソング(政治的抗議のメッセージソング)を歌うボブ・ディラン(1941- )、黒人歌手サム・クック(1931-1964)へ、そして、黒人初の大統領バラク・オバマ、2022年のエメット・ティル反リンチ法制定へと繋がっていく…。そう、蝶の羽ばたきひとつで世界は変えられる。もう、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』(21年)観るしか無いですね。

ちなみに…このNHKの映像の世紀シリーズを観ていて思ったことがひとつ。この、映像ドキュメンタリーは実話作品の映画よりも深く心に残ります。それは、本人のマイナスの部分もちゃんと伝えているからではないでしょうか。例えば、ビリー・ホリデイは金儲けが目的の白人マネージャーに薬漬けにされていたこと。それが原因で、ステージの袖で倒れていてもマネージャーに蹴飛ばされてステージに上がっていたことなども、忠実に語られています。『シンドラーのリスト』(93年)でも、シンドラー夫人が映画について「この作品は、夫をちょっと美化し過ぎている。夫は(金儲けしか頭に無く)、単に安い賃金で働いてくれるユダヤ人を使いたかっただけ…」と言っていたような記憶があります。さあ、私もこの映像をたくさん見て、歴史をもっと勉強しなくては…。